約 1,869,069 件
https://w.atwiki.jp/gods/pages/42159.html
アストラボール アーサー王伝説に登場する人物。 関連: パロミディス (息子)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7771.html
前ページ北斗の拳・外伝 ~零の北斗七星~ 北斗の拳外伝 ~ゼロの北斗七星~ 第2話 「使い魔の仕事! 俺は全ての敵から護る盾!!」 ・ ・ ・ ・ ・ 「……」 その日の夜、ケンシロウは上を見上げ絶句した 「…(何故、月が2つあるのだ……)」 そう、月が‘2つ‘あるのである、ケンシロウのいた‘世界‘では絶対にありえない話である。というよりか、寧ろ今日一日だけでありえない事がたくさんあった。 ……話は数時間前に戻る。それは春の召喚の儀式が終わり、自分の部屋に戻る時であった。 「ル、ルイズー、お前は歩いてこいよー!!」 「ああ、そこのへ…傭兵と一緒にな!!」そう言いながら飛んでいく生徒達。 本当ならここでもっと酷い罵声を浴びせているのだが、後ろに立っているケンシロウが怖くて言えなかったのだ。 しかし当のケンシロウは別の事に驚いていて彼らの事など眼中に……いや、むしろ彼らに目線が釘つけであった。 「(………空を…飛んでいる…というよりも…浮いている……)」 そう、飛んでいるのである。‘ルイズ達の世界では良くある事’でも、少なくとも‘ケンシロウのいた世界’ではまずない事である。 確かに空を ‘ジャンプで跳ぶ’というならわかる。 ケンシロウもかつては空高く飛んでいたヘリコプターに対して地上から飛び乗りるという離れ業をやってのけた事もある程のジャンプ力はあるし、北斗神拳には空中技が多く存在するのも確かである。 しかし、彼らのはジャンプして飛ぶ、というよりも‘何かに持ち上げられていく’感じである。自力で上まで行くのでは無く、例えるならかつてジャッカルという卑劣漢と人外の巨体を持っていた外道、デビル・リバースと戦った際にデビルがジャッカルを安全な場所へ運ぶ様な、そんな感じだったのだ。 「(…訳が分らぬ…一体どういう処なのだ…)」 「……どうしたのよ、早く着いてきなさいよ?」 唖然としているケンシロウを尻目にルイズは館へ向かおうとする。なぜか空を飛んでいた連中と違い、コチラは徒歩だが 「……お前は飛んでいかないのか?」 「う、うるさいわね!そんなの私の勝手でしょ!?」 何故か激昂しながらケンシロウに怒るルイズ、ケンシロウはルイズの服装を見る。 「(……汚れや穴なんて一切無いな…先ほどの連中も見たところ、余程裕福な暮らしをしていたのだな……)」 ケンシロウは今目の前にいる彼らと今までケンシロウが見てきた子供達を思い出し、比べた。 ―見た目は確かにこの子達の方が裕福だろう、しかし…… この子達にあって、あの子達に無かった者…それは…… ……一方その頃、自らの部屋へと帰っていく生徒達+コルベール 「いやーまったく、本当に怖かった…あの平民は…」 「マリコルヌお前なに平民風情にビビってたんだよwwwwww」 「うるさいなーお前もビビリまくってたじゃないか」 「ちょwwwww」 「いやー、ホントに情けないねぇ君たちは、そんなだから僕のような……」 男子生徒達はケンシロウの話題で一杯である、といってもそれは殆ど見栄の張り合いであり、言うまでもなく全員ケンシロウにビビっていた。 「まったく…どうも男ってのはつまらない見栄を張りたがる者かしら?」キュルケは見栄の張り合いをしている男子達に呆れていた 「それにしてもルイズが召喚したあの男……なかなか良い男だったわね♪ルイズには勿体ないくらい」 ルイズとキュルケは犬猿の仲である。といってもこの場合彼女達個人ではなく御家柄同士の喧嘩でもある、ある時は戦争をし、ある時は婿を奪い合ったりもした。だが当のキュルケはそんな事は対して気にはしていない、ぶっちゃけ、からかうとすぐに反応するルイズが楽しいのである。 「………」 そのキュルケの隣にいるタバサは、キュルケの発した発言に対し、 「……あの男には近づかない方がいい…」 「えっ?」 「……あの男は、とても危険」 それは他人からしたら無表情ではあるが、タバサの友人であるキュルケには 何かを恐れている様な、怯えた表情だった。 「ちょ、どうしたのよ?貴女らしくない…」 「……」 タバサはあの時、死んだと思った。あの男から発せられた謎の威圧感、 あれはまるで‘死神’に対面したかの様な、今までに無かった恐怖である。 かつてタバサは数々の危機にさらされた。それでもまだあれは希望があった。 しかしあの時、あったのは‘絶望‘である。 タバサは直感で死を覚悟した…… 恐らくあの中でそれがわかったのは自分だけであろう。 隣の唯一の友人であるキュルケでも知らなかったであろう、それでもあれはとても恐ろしいものであったろう、 …故に‘アレ‘に近づいてはいけない、’アレ‘は人ではない、もっと恐ろしいなにかである。 「…何があったかはわからないけど、私は貴女の友達なんだから、なにかあったら…相談してよね……」 キュルケはそんな悩める友人に優しく言う 「……ありがとう」 タバサもまた、無表情ながらも、少し照れくさそうな顔で言い返した。 ・ ・ ・ ・ ―――――― そして現在に至る 「なに、ボーッとしているのよ、早く私の部屋に行きましょう?」 「……おい、確かルイズと言ったな?」 「ええ、そうよ、っていうかご主人にむかってオイってなによ!?」 「…ここじゃ月は2つなのか?」 「?なに当たり前の事を聞いているのよ、月は二つあるものでしょ?」 「俺がいた‘世界’じゃ月は1つだ」 「え、なに?月は1つ?しかも俺のいた世界?なにそれ、どんだけ田舎モンなの?馬鹿なの?死ぬの?」 「…口の悪さはともかく嘘は言ってなさそうだな……」 「だからなによ、世界って、まるで世界が2つあるかのような言い方しちゃって」 「信じたくないが、どうやらその様だな……」 「……は?ま、まぁ良いわ、詳しい話は私の部屋でしましょ」 ルイズはハッキリいって疑った、月が一つ?しかも俺のいた‘世界’?ルイズは自分が召喚した使い魔は、只の平民ではなく 、大ボラ吹きである判明したため、ガックリした。 (……聖ブリミアよ……これも私の試練だと言うのですか?) その後、ルイズはケンシロウを部屋に連れて行き、双方は大方の事情を話した。 ―ケンシロウがいた世界、それはかつて巨大な文明が存在していた。しかしとある一つの兵器が世界を破滅に導いた。 全ての文明は滅び、草木は枯れ、大地は荒れ、人類は絶滅しかけたが、なんとか生き延びた者達もいた。 しかし、あらゆる文明が滅んだ世界、そこには確たる法も無く、国も無かった。力のある者が支配する 、弱肉強食の地獄だったという。 「……そんな話を信じろ、というの?」 「ハッキリ言って信じられないだろう、俺だってここまで豊かな世界はあの戦争以来一度も見ていない」 ちなみにケンシロウは自身の、「北斗神拳」の事は一切触れていない。 「それに‘魔法’なんてものも見たことは無い……」 「まったく、魔法を知らないなんて、とんだ田舎なのね、その世界は」 「だから田舎も何も、恐らく世界が違う……」 「それに、一番信じられないのは、‘民主主義’なるものが繁栄してたなんて、 言っとくけどそのホラ、余所には絶対言わないでよ?」 「……何故だ?」 「何故って、そんな事街で言ってみなさいよ?たちまちアンタは捕まって国家反逆罪に問われて死刑よ?」 「…………」 ケンは少し失望した。この世界は豊かかもしれないが、 ‘自分のいた世界’に似てる。血筋や財力と言った‘力’の名の下に、‘平民’は‘貴族’よりも価値が低い、そんな世界だったのだ。 「…では聞くが、もし貴族と平民が揉めて本当は貴族が悪くても平民のせいになるのか?」 「は?なにいってるの?」 ルイズは信じられないような目でケンシロウを見る 「貴族ってのはね、もっと誇り高い人間なの、そんな権力を誇示して平民を虐める奴なんて、 貴族にして貴族にあらず、って感じよ!!」 「そんなのは誰も許さないし、なによりも私が許さない、絶対に許さないんだから」 ケンシロウは少々驚いた。この我が侭娘は、誇りを持っている、それも心優しき誇りが。 「……そうか」 そう答えるケンは微笑んでいた。まるで子供を褒めている時のような、そっと、そして優しい笑みを。 「それならルイズ、その思い、決して忘れるな」 そしてケンは彼女をの事を少し理解した、彼女はただ自分の感情に不器用なだけであり、 本来はとても優しく、そして誇り高い少女だと 「(…なにかしら?この暖かさ……まるで幼い時お父様と寝ていた時のような……)」 「フ、フン使い魔の貴方に言われなくてもわかっているわよ! そ、それでケン、言い忘れていた使い魔の仕事なんだけど」 「……何だ?」 「まず一つ、契約した使い魔は、主人の眼となり耳となる能力を与えられるの、つまりアンタが聞いたり、見たりしたものを、 私も聞き、見ることが出来るって訳、これは……見えるわけ無いわよね、平民だし」 でもケンシロウみたいな大男の高さから皆を見下ろせたら面白そうだなぁ…と思ったルイズであった。 一方ケンシロウは少しホッとしていた。 「次に……次に秘薬の材料を集める事なんだけど…アンタこれも無理っぽいわね」 「その秘薬というのが何処にあるかだな」 「例えば、火の秘薬だと、硫黄だから火山にあって。水の秘薬だと…確か…何かの精霊の一部とか言われているわ。」 「…水の秘薬というのは良く分からないが、硫黄なら取りに行けそうではあるな」 「そ、そう……(普通の人間が取りに行けないところだから使い魔に行かすんだけど…)」 「ま、まぁ良いわ、それで、3つ目、使い魔は主人の力となり身を守る、まぁ要は私の為に戦って、護って貰う訳ね」 「そうか、わかった」 以外にもケンシロウはあっさりと承諾した。 「あ、あら意外と従順ね…こう、もっと嫌がると思ったのけれど…。」 「今ここで変に抵抗してもどうとなる訳ではない、それに…」 「それに?」 「もしこれも北斗の運命というのなら、俺は受け入れよう」 「は?ホクト?何それおいしいキノコ?」 「…気にするな、お前が知る必要は無い」 「な、何よそれ!主人に隠し事をする気!? ……フ、フンまぁいいわ、という訳で明日からは私の使い魔として働けるんだから感謝しなさい!」 「フッ……わかった」 「ちょ!?い、今笑った?笑ったでしょ!?」 ケンシロウにとってルイズの発言は育ち盛りの少女が必死に背筋を伸ばし、 つま先を立ててえばっている様に見え、 おかしかった。若い子供らしい、瞳に光のある子供である。 「はぁ……まぁ良いわ、もう疲れたから私は寝るわ、それじゃあケンシロウ、着替えるから私の服を脱がせて」 「…それぐらい、1人で出来るだろう」 「主人に反抗する気?良いから脱がせなさいよ」 「…自分でやるんだな、貴族というのは自分の事も出来ないのか?」 「なっ!?で、でで出来るわよ! …ああもう調子狂うわね、まぁいいわ、廊下にメイドがいるから渡しといて!」 ルイズはそう言って服を脱ぐとケンシロウに投げ渡し、そのままベッドに入り、眠りに入った。 「……。」ケンシロウは思わず1人の少年を思い出した。 「(…まるでバットみたいだな。)」 ケンシロウが共に旅をした少年、バット。我が侭なところもありお調子者だった少年、 しかし彼は次第に成長し、そして立派な戦士となった。 「(この子もまた…大きく成長するのだろうか…)」 そう思い、ふっと窓から外の風景を見る。 ー今まで見ていて来た枯れ果てた大地出は無く、とても豊かな世界、 バットはあの荒野の地獄の中を耐え抜いたからこそ立派な戦士になった。 では彼女は? 「……」 ケンシロウはそれ以上考えるのはやめた。 「…とりあえず外に出てみよう」 ケンシロウはそう言うと外に出た、あの森の世界がどうなっているのかを見る為に。 一方その頃…… (……燃やせ……!) (…やめろ……) (殺せ……!) (やめろ…!) (焼き尽くせ!!!) 「やめろぉぉぉぉぉ!」 コルベールがベッドの中で悲鳴を上げた、そしてハッと我に返り眼を覚ました。 「はぁ……はぁ……ゆ、夢か……!」 彼は大量の汗をかいていた、その顔には恐怖が見えていた。 「まさか……またあの夢を見るとは……」 コルベールが見た夢、それは自身の人生の最大の罪、忌まわしき記憶であった。 燃え盛る村、黒焦げになる人間、それを下卑た笑みで見る人間 そこはまさに、地獄だった。 「彼を…見たからか……やはりあの男…只者では……」 彼は、ケンシロウを見たときに真っ先にあの時の自分を思い出した。 それは彼から発する‘死の臭い’に当てられたからか 「……ん?あれは?」 そう言ってコルベールが窓から見たのはそのケンシロウだった。 何やら壁の前に立っていたが。 「……!?き、消え……!?」 消えた、壁の前で立っていたかと思えば、いきなり姿が消えたのであった。 「……これも夢?……」 試しに自分の頬を捻ってみた 「…痛いから夢じゃないな…では今のは……!」 その日、コルベールは眠る事が出来なかった。 ホアチャア!ホクトノケーン! ケンシロウは壁を飛び越し、学園の外に出ていた。 そこに見えたのは、まぎれもない緑の大地であった。 「久しぶりに見る…緑の大地だ」 ケンシロウはこの時思った、もしあの世界も緑にあふれていたら、 あの様な地獄はなかったであろう、そして北斗も……。 「………」 ケンシロウはそのまま森の中へ入って行った。その時 「……!」 何処か、遠いところから悲鳴が聞こえた。 「……アッチ、か……」 そう言うとケンシロウはそのまままっすぐに走って行った。 ――その先の道 「い、いやぁ、お願い、助けてぇ…」 1人の女性が子供を抱きながら命乞いをする、近くには馬車、 剣で斬られた男と背中が燃えている男、 そしてその周りを15人ほどの大男が下卑た笑いをしながら囲んでいた 盗賊である 「うえっへっへ、とんだカモがやってきましたねぇ親分」 「ああ、これだけの宝石と食いモンがあれば当分こまらねぇ」 片目に傷があるモヒカンの大男がマントをし、ハット帽をかぶり 杖を持ったリーダー格の男と話していた。俗にいう没落メイジである。 「そんでよぉ親分、この母娘どうします?」 「ああ、母親の方は好きにしろ、その代わり俺はガキの方を犯らせて貰うぜ」 「げぇっへっへ、親分も好きもんだなぁ…さぁて」 「ひっ!?」 「さぁておばさんよぉ…そのガキを渡しな、そうすれば一緒に可愛がってやるぜ」 「お、お願い私はどうなってもいいからこの子だけは…この子だけは…」 「お母さん……!」 「はぁ?知らないよお前達の事情なんざぁ、まぁいいややっちまおうぜ!」 「い、いやああ!?」 そう言って獣の如く母親に襲いかかろうとする盗賊達、しかし 「やめておけ」 1人の男の声が聞こえた。 「ああん?」 そう言って盗賊達の1人が後ろを向くと、そこにはケンシロウがいた。 「その母娘を放してやれ」 「放せだぁ?コノヤロウ、何様のつもりだテメェ!!」 そう言うと3人ほどの男達がケンシロウに襲いかかった、1人は槍、2人は剣を持っていた。 「死ねぇええええ!」 「ほぉあちゃ!」 ケンシロウは素早く回し蹴りをし、3人を纏めて蹴り飛ばした 「おぶぅ!」「ぎゃあ!」「へぶっ!」 「きゃあ!?」女性が驚きの声を上げる 「チィ!」リーダー格の男が舌打ちをする。 「今のうちに逃げろ」 「は、はい!」母娘は生き残っていた馬で逃げた。 「コ、コノ野郎…せっかくの女を逃がした上にこの俺様の顔を……ヤロォブッコロシテヤルァー!」 「無駄だ」 「な、なんだと…!?」 「お前達はもう、死んでいる」 「死んでいるぅ?何を寝ぼけた事を……ヲッ…ヲッ…!」 「な、おいどうし…ひぃっ!?」 「お、お前あ、頭……!」 「ヲ、ヲババババ…ババ…ァ」 先ほど蹴られた内の男の1人の頭が急に大きくなっていく それはアンバランスに、グロテスクに、そして他の2人も体に以上が見え始める 「ぎゃっ、ぎゃがあああがばばばば!」 1人は顔が引っ張るように横に広がっていき 「げぶぇ、えべべべべべべ!」 もう1人は顔が捻じれていく 「う、うわああああ!?」 「な、なんだなんだなんだぁ!?」 そして 「マッハァ!!」 そのまま風船の如く破裂し、血肉が周りに飛び散った 「バァマぁ!!」 まるでパンを裂いたかの様に顔が割れ、鯨の様に血が噴出した 「ベンゾォッ!!」 顔面がねじ切れ、顔が無くなった。 「う、うわぁあああああああ!?」 「な、なんなんだ、何が起きたんだ!?」 「ひぃいいいい!?」 「ええいてめぇら、落ち着け!恐らくあれも魔法だ!あれはメイジの仕業じゃ! (しかしあんなの見たことがない…あれは一体!?)」 「て、てめぇら、所詮奴は1人だ!一斉に攻めれば訳はねぇ、やれ!じゃなきゃ俺がお前らを燃やすぞぉ!」 「う、うおぁああああああああ!」 「おらぁあああああああ!」 盗賊達が輪になって一斉に襲いかかった、全員武器を持っている 「はぁああああ……」 ケンシロウは構えると、まず1人の敵に向かった 「ほぁたぁ!」 「ぶべっ!」 まずは1人、正面から顔面に突きを放つ。 「あぁたたぁ!」 「ぎゃあ!」 そして隣にいた2人の腹部に蹴りを入れる ほぁちゃあ! 「ぼぶっ!」 そして後ろから襲いかかった1人を裏拳で沈める 「あーたたたたたたたぁ、ほぁっちゃぁあ!」 「「「「「ぐぎゃああああああ!?」」」」」 そして残りの全員を回転しながらの連続の突きで沈めた この間わずか5秒である。 「ぐ…ぐぐ……なんて奴だ……!」 「さぁ、次はお前だ……!」 「な、何を…!お、おいお前らいつまで寝てやがる!早くコイツを……!」 「お前はさっきのを見て無かったのか?そいつらはもう…死んでいる」 「な、なんだと……うわひぃ!?」 リーダー格の男は部下の山賊達の方を見た。 「うぅぱぁぱぱぱぱぱぱ、るぅぱぁ!!」 顔面を殴られた男は殴られた部分が膨れ上がり、爆破した 「は、はらががっががあっががががっががぁんまぁ!」 腹を蹴られた男達は腹部が膨れ爆破し、真っ二つになった 「もぺ、ぺっぺぺぴぴぴぷぷぅ、ぽぉう!」 裏拳で沈められた男はへこんだ部分がさらにへこみ続け、そのまま後頭部が爆破した。 そして他の仲間も一斉に体の部分が膨れ上がったり、ねじ曲がったり、へこんでいき、爆破した。 あたりには大量の血と臓器がぶちまけられた。 「北 斗 翻 車 爆 裂 拳」 「ほ、ほほほほほくと……!?」 「さぁ、次はお前だ……」 「ま、ままま待ってくれ!俺はア、アンタに降伏する!俺が今まで奪った財産や食糧、全部アンタに譲ろう! だから許してくれ、なっ!?」 男は必死に命乞いする、しかし実は手には杖があり、さりげなく詠唱をしていた。 「………」 「ほ、ホントに勘弁してくれ、お、俺は元々は貴族だったんだ、それを卑劣な王族に騙されて、没落して、 家族を養う為に、こ、こんな事をしなくちゃならなかったんだ! だから…だぁからぁ…死ねぇ、ファイヤーボール!」 「む!?」 ぼわぁっ! 男が杖を向けた瞬間、炎の弾が飛んでいった、ケンシロウは咄嗟に腕でガードしたが、その腕かた炎が全身に渡っていった 「ひゃあはははは!燃えろ、燃えちまえぇ!ひゃぁあはははははは、はは……!?」 しかし男はとんでもないもの見た。炎に包まれた中、ケンシロウの顔はとても落ち着いていたのだ、そして… 「フンッ!」 軽く腕を振ると全身に広まっていた筈の炎はあっという間に消えていたのだ。 「な、なななななそんなぁ!?」 「それでおしまいか?」 「ひ、ひぃ!?」 コキッ、コキッ ケンシロウは指を鳴らしながら男に詰め寄る。 「あたぁっ!」 「ぎゃぶっ!」 ケンシロウは両指をリーダー格の男のこめかみに突き刺すと、リーダーはそのまま気を失った。 「………おい」 「ひっ!?」 ケンシロウは後ろを見た、すると1人の男がいた、恐らくさっきの一味の1人なのだろう 周りに誰かいないか見回りをしていたと思われる。 「ひ、ひぃすいません、本当に勘弁して下さい!もうわるい事しません、貴方様に逆らいませんだから命だけはお助けを…!」 ケンシロウは男の額に指を置いた。 「ヒィっ!?」 「……行け」 「……え?ええ?」 「行けと言ったのだ」 「は、はいぃいいいいいい!」 男は風の如く逃げて行った。 「……」 ケンシロウは襲われた人たちの遺体を見た、それは自分がいた時代にも見た光景だった。 弱者はただ強者に嬲り殺されるだけの、苛烈な地獄の様な世界。彼はそれを変えたくて、旅をしていた 「(…この世界も、弱者を食い物にし、人々の眼から光を奪う人間がいる… 恐らくあの娘も光を奪われるかもしれない…ならば!)」 ケンシロウは拳をグッと握りしめ、1つの決意をした。 「ならば俺は…未来への光を断たせぬ為に戦う……!」 それは、ケンシロウがルイズの使い魔として過ごすことを決意した時であった。 ――一方その頃、都市よりすこし離れた森の所 馬に乗った数人の人間が、明りを持って周りを見回した。 彼らは平民ではあるが国を守る騎士として存在する「衛士隊」の人間であった。 その中に一際目立つ‘女’がいた。 白く細いが、どこか精悍な感じの肉体、美しい短めの金髪に蒼き瞳の女性、名前はアニエスという。 そのアニエスが森の中から何かがこちらに来るのを見た。 「む?あれはなんだ?」 衛士達が明りを向けると、それは見たことのなる顔の男だった。 「ん?おいあれは確かここ最近暴れている盗賊集団の幹部じゃないか?」 「何だと?」 改めてみると確かにそうだった。衛士達は剣を抜いて構えた、しかしよく見ると様子がおかしい。 「なんか……おかしくないか?」 「ああ…まるで何かから逃げている感じだ…」 すると! 「!う、うわぁ!?」 「な、なんだぁ!?」 いきなり男が頭を抑えて苦しんだかと思うと、次の瞬間頭が膨れ上がり、爆破したのだ。 「な、なんだ一体、何が起きたのだ!」 「ま、まさかメイジの仕業か!?」 衛士達はうろたえた、なにせメイジといえばそこらの盗賊よりはるかに手ごわい相手である。 「くっ、皆気をつけろ!」 アニエスが正面をにらみ、構えている。 しかししばらくたっても何も起きなかった。 「な……なんだったんだ?」 「と、とりあえず死体のところへ向かおう…」 彼らは死体のところへ向かった。 「これはひでぇな…」 「どうなってるんだ?まるで内側から爆破しているみたいだぞ」 「ど、どうする…?」 するとアニエスが1つの提案を出した。 「ではここで2手に分かれよう、私とフィンレー、ステファン、デビットの4人でこの男が来た方向に向かう、 ファレリーとデニス、ダレンはこの死体のところにとどまる、 グレアムとスティーヴンは他の仲間を呼んできてくれ」 「だ、大丈夫かアニエス?」 「心配無い、それに私たちはまがりなりにも衛士隊だろ?怯えててはいけない」 「よし、そうしよう」 そうしてアニエス達は男が逃げて来た方へ向かった。 ――そして20分ほどたった時、アニエスが見たのは想像を絶する光景であった。 「うっ……」 「こ、これは………」 「い、一体なんなんだこりゃあ!」 そこには先ほどの男の様な死体の山があった ある者は頭が真っ二つになっており ある者は顔面がえぐれて ある者は腹から2つに分かれていた 「こ…これもさっきの男の様に……」 「ひ、ひっどいなこりゃ、こんな死体見た事ねぇや」 「おいアニエス、まだ生きてる奴がいるぞ!」 「何!?」 アニエス達はすぐさまそこへ向かった 「ああ、こいつだけ気を失っている」 「!お、おいこいつ盗賊団の頭領のメイジだぞ!」 「あ、本当だ!」 「お、おい眼を覚ましたぞ!」 「う…うぁ…」 頭領の男は眼を覚ました、しかしその顔は恐怖に歪んでいた 「おい、貴様、これは一体なんだ、誰がやった!?」 「ほ……ほく…と……」 「ほくと?」 「ほ、ほく…とぁあああ!?」 「な!?」 頭領の男の頭が急に膨れ出した 「ま、またか!」 「皆この男から離れろ!」 そういうと衛士達は男から離れた。そして 「あ~、ああ~…… あ べ し !」 盛大に爆破し、当たりに血肉が撒き散らかった。 「う、うわぁあああ!?」 衛士達はパニックになった 「おいおいおい!これは何なんだよ!」 「知るか!それよりもまだこの辺にメイジがいるかもしれないぞ!皆四方に構えろ!」 アニエス達は四方に剣を構えた、しかしいくら待っても攻撃が来ることはなかった。 「な、なんだったんだ……」 「さぁな…しかしヤツが最後に残した‘ホクト’とは一体…」 「さぁ…」 「(……ホクト…か…)」 「アニエス?」 「ん?あ、ああすまない、皆、とりあえず仲間を待とう、この後をどうするかはその後だ」 ふと、アニエスは空を見上げた そこに見えたのはいつも通りの2つの月と、 今まで見たことの無い、7つの星であった……。 テーレッテー ルイズの使い魔としての生活が始まったケンシロウ、しかしそこで見たのは、貴族と平民の絶望的な格差、 そして力無きものへの手の無き虐待であった! その頃、トリステインでは「ホクト」の謎に挑もうとする、アニエスの姿が! 次回北斗の拳外伝!ゼロの北斗七星第三話! 「豊かな世界の真実 力が弱者をいたぶる世界!!」 「お前はもう……死んでいる!」 前ページ北斗の拳・外伝 ~零の北斗七星~
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2149.html
声のする方向に視線を向けたが、なにやら揉めている。 アニエスがコルベールに剣を突き付けているようで、中々の修羅場のようだ。 「さっきから何やってやがる。内輪揉めとか本気で勘弁しろよ。メンドクセぇ」 負傷や戦闘の疲れでかなりダルい。 最悪二人ともブン殴って終わらすかと思って近づいたのだが、どうも事はそう単純ではないらしい。 「貴様…何故わたしを助けようとした! あの時、女、子供も容赦なく焼き殺したお前が!今、わたしを助けるぐらいなら何故あの時故郷を焼いた!!」 アニエスのその言葉を聞いて思い当たる事はある。 リッシュモンはあの時殺ったが、あれは命令を出しただけだ。パッショーネで言うならボスの立場か。 当然、実行者。これもパッショーネに例えるなら暗殺チームが居るはずなのだが、それがコルベールか。と判断した。 「命令だった……」 「命令?リッシュモンのか!」 「そうだ。……疫病が発生し、焼かねば被害が広がると告げられた。仕方なく焼いた」 そんな二人のやり取りを聞いてプロシュートの眉が少し上がった。 どうも今の言い様が気に食わないのだが、とりあえずもう少し聞いてみる事にした。 「バカな…それはリッシュモンがでっちあげた嘘だ……!」 「……ああ、後になってわたしも知った。新教徒狩りと知り毎日罪の意識に苛まれた。メンヌヴィルの言ったとおりの事をわたしはやった」 「それで……それで軍を辞めたのか」 「そうだ…二度と炎を破壊の為に使わないと誓った」 「そんな事で…貴様が手にかけた人が…帰ってくると思っているのか?故郷と家族の仇討たせてもらうッ!」 アニエスが剣をコルベールの首に突き付けたが、それでもコルベールは動こうとはしない。 それを見てもプロシュートとしては止める理由も特には無い。 自身が恨みを買う立場だっただけに、復讐者に対しては 『殺れるもんなら殺ってみやがれ。ただし、死ぬ覚悟はしておけ』 である為に、抵抗する気が無いならそりゃあそいつの勝手だ。 という事で今の所邪魔する気は無いのだが、そうもいかないキュルケが割り込んできている。 「お願い、止めて!確かにコルベール先生はあなたの仇かもしれないけど 今はあなたを助けようとしてくれたじゃない。それでも斬るっていうの?」 確かにあの時グレイトフル・デッドが割り込まなければ間違いなくコルベールは死んでいた。 そのせいか、アニエスの目に迷いが出始める。 「ぐ…ッ!だが…二十年前にわたしの故郷を焼いた事には変わりはない…ッ!こいつが…いくら後悔していようとだ」 そうは言うがかなり迷っているようで、切っ先が上がったり下がったりしている。 昔の仇と今の恩。どちらも天秤にかけるには重いが、それでも僅かに仇の方に傾いたようで剣を振り上げた。 と、そこにプレッシャーを撒き散らしながら、プロシュートが三人に近付く。 「おい」 「何だ!貴様も邪魔するつも…り」 アニエスが見た物は、問答無用で構えられている握り拳が飛んで来る様。 反射的に防御姿勢を取ったが、それはアニエスを捕らえる事なく……コルベールに突き刺さった。 「なな…何を…」 相変わらずの突拍子の無い行動を目にしたキュルケがどういう事態か理解できずに聞いてきたが 殴った方は、それを無視してコルベールの胸倉を掴んだ。 「さっきから黙って聞いてりゃ、何ふざけた事言ってやがるてめー…」 「な…わたしは何も…」 まだ何か言う前にもう一発追加で拳が入る。 「まだ分かんねーのか。さっき言ったな?仕方なくってよ。 仕方なく?仕方なくだと?ナメんのも大概にしやがれ。知らなかったってのは良い… 組織に属している以上、命令はあるからな…別にその事じゃあねぇ。 だがッ!『罪の意識に苛まれた』だと?それじゃあ仮に疫病が発生してたってんなら仕方ないって事で済ませれる。そういう事だよな?おい」 暗殺チームの立場からすれば、『疫病』も『新教徒』も違いは無い。 殺るか、そうでないか。のどちらかでしかない。 結果は問題とはしていない。むしろ、その過程にある物が気に入らないのだ。 疫病だろうが、新教徒狩りだろうが、ダングルテールを滅ぼしたという結果に変わりは無い。 だが、こいつは疫病だったから仕方なく焼き、そして新教徒狩りと分かれば後悔したなどと言った。 暗殺任務において、『仕方なく』やった仕事などは一切無いだけに、余計に気に入らない。 「自分がしでかした事から逃げたんだよ…オメーは。 請け負った仕事が偽物だったんなら、その時命令を出したヤツを殺るならすりゃあいいじゃあねーか。 それもしないで、何が仕方なくだ。なぁにが罪の意識だ。大体オメー隊長だったんだろうが。部下はどうすんだよ。 オレ達チームの他のヤツならッ!組織に裏切られとしても逃げたりはしねぇ!例え途中で仲間が何人死のうとも決してなッ!」 だからこそ、ホルマジオも、イルーゾォも、ペッシも、メローネも、ギアッチョも、リゾットも戦い死んでいった。 ボスがジョルノに倒されてさえいなければ、今頃は、イタリアで墓の下か潜伏生活というところだろう。 「それでも分からないってんのなら……」 言葉の温度が一層低くなり、次の言葉にキュルケとアニエスが凍りついた。 「……いっその事、ここで死ね。なに、オレに殺られるのも、そいつに殺られるのも大して違いはねぇ。この際だ、オレがブッ殺しといてやる」 絶対零度。さっきコルベールが発した、触れば火傷し燃え尽きるような感じとは全く違う雰囲気。 暗殺という汚れ仕事に従事し、対象が誰であろうと躊躇しないという全てを凍らす冷徹極まりない声。 コルベールもそういう物を持っていたかもしれないが、プロシュートから言わせれば、まだ甘い。 言うなれば、専門職と兼職の違いか。この場において、その差がハッキリと出た。 スタンド使い以外には見えない力がそ右腕より発せられ、コルベールの首筋を掴みその跡を出現させる。 こうなれば、一瞬で終わる。直ならば、人一人老死させる事など容易い事だ。 が、不意にスタンドを解除しコルベールを離した。 「…それをオレに向けるって事がどういう事か分かってやってるんだろうな?」 明確に向けられている敵意。後ろを見なくても誰が何をしようとしているかぐらいは分かる。 「分かってる、でも!そんな事は絶対に許さない…!」 何時に無く真剣な顔のキュルケが、すぐ後ろで杖をこちらに向けている。 「先に言うが…スデにグレイトフル・デッドはオメーの真正面だ。それでもか?」 キュルケがその問いには答えず、呪文を唱え始める。 「馬鹿が……ッ!」 先にもあったが、敵対するつもりなら一切の容赦はしない。 だが、掴もうとした時、下のコルベールが静かに口を開いた。 「わたしの教え子には、手を出さないでくれ」 「そうしたいんだが、向こうがそうさせてくれねぇ」 「もういいミス・ツェルプストー。わたしはそれだけの事をやったんだ。その報いだよこれは」 「嫌です!あんなに小ばかにしていたあたしをミスタは守ってくれたでしょ。だから今度はあたしが!」 「…ってこった。悪いがオレは手加減なんっつー器用は事はできねぇからな」 一触即発。誰かが少しでも動けばケリが付く。 キュルケが杖を動かすと同時にプロシュートがスタンドを向け、コルベールが止めようと声を出そうとした時 風が吹き、キュルケを吹き飛ばす。コルベールとプロシュートには直接当たらないようにだ。 これだけの風を精密に使いこなすのは、この場所においては一人しか居ない。 「タバサ…あなたどうして……」 倒れたキュルケが顔を上げると、杖を持ったタバサが顔を横に振る。 「駄目」 その一言。それだけの行為だった。 なんとか杖を拾い、再び二人の方へ視線を向けると、またしてもコルベールの首筋を見えない手が掴んでいた。 「君に言っても仕方ないかもしれないが、最期に一つ言わせてくれ。 これ以上、殺し合いに慣れるな。死に慣れるな。わたしのようにならないでくれ」 「…お前それは冗談のつもりか?オレみたいなヤツに言う事じゃあねーぞ」 「まぁいいさ。君たちの世界を見てみたかったんだがな…」 そう言ってコルベールが目を閉じると同時に、見事に重なる二つの声。 「やめてぇぇぇ」 「やめろぉぉぉ」 キュルケと今まで黙っていたアニエスが同時に叫んだが、もう遅い。 何時もと変わらない声のプロシュートが一言だけ言った。 「アリーヴェデルチ(さよならだ)」 スタンドパワー全開。 その瞬間、コルベールの身体に無数のシワが刻まれ朽ち果てていき、その場に崩れ落ち 近寄ったタバサがコルベールの手を取ると雪風の二つ名と同じような冷たい声で告げる。 「死んだ」 炎蛇のコルベール――死亡 ようやく日の光が出てきたが、その場で声を出す者は一人も居ない。 広場にコルベールが枯れ木のように朽ち果て倒れているのだから当然だ。 そんな重苦しい中、何かに気付いたアニエスがやっと口を開いた。 「お前が…貴様が、あのグラモン元帥の子息を決闘で討ち滅ぼしたという悪魔憑きか…」 「よく知ってんじゃあねぇか。ま…確かにこいつは…悪魔かもしれないが」 人によっては悪霊とも言うだろうが、中には己に害をもたらすスタンドも珍しくないだけに、ある意味間違ってはいない。 「何故だ…何故殺した!」 「あ?オメーの手間省いてやったんだろうが。感謝しろよ」 「違う!二十年だ!二十年をもこの日を待っていた…それを貴様が!」 「そうか?ならどうしてあの時すぐに殺らなかったんだよ」 殺ろうと思えば、あの場で殺れたはずだ。 その事を指摘されアニエスが戸惑う。 「それは……仇とはいえ、わたしの身代わりになろうしたからだ……!」 「ハッ!そんな半端な気で殺ろうとすんじゃあねぇ。迷いながら殺るなんぞ、まだ殺らない方がマシだぜ」 心に迷いがあるという事は、その覚悟が出来ていないという事だ。 つまり、今のアニエスにコルベールを殺す資格などは無い。 「なら、どうすれば良かった…どうすれば…!」 「知るか。そのぐらい自分で考えろ。オレとあのハゲからの宿題だ。次、会う時までぐらいには答え見つけとけよ」 「…クソ。負傷者の手当てを…悪いがしばらく一人にしてくれ…」 近くに居た銃士にそう告げると、力無くアニエスが歩き出し、その姿を消した。 他の銃士の姿も見えなくなると、息を吐く。 「ったく…どいつもこいつも…」 今にして思うと、チームのヤツらが懐かしく思える。 よくもまぁ、ああも似た連中が集まった…いや、似た連中だから暗殺チームになったのかと思っていると コルベールの上に覆い重なるようにして、キュルケが泣いていた。 「どうしてこんな……」 どうしてこうなったのか全く以って理解できない。 コルベールを殺ろしたプロシュートも、死を受け入れたコルベールも、そしてあの時邪魔したタバサの事も。 パシ! それもこれも、自分のせいだ。自分が不用意な行動を取らなければ、もう少しマシな結果になったかもしれない。 そう思うと余計に泣けてきた。 ピシ ふとコルベールの指に嵌った燃えるようなルビーを見つけると、ある決意が浮かび上がる。 ガシ 何時もの『微熱』の二つ名を持つ自分ならどうするか。 グッ 決まっている。情熱と破壊という火の本領に基き行動する。 つまり、プロシュートへの攻撃の再開。敵わなくても一矢報いたいという想いで顔を上げたのだが… グッ もの凄い無表情でプロシュートとタバサが手を合わせていた。 「で、何時からだよ」 傍から聞くと何のこっちゃ分からないだろうが、意訳すると「何時からオレに気付いた」という事だ。 「夜の街道」 「マジか?あの暗さだぞ」 「シルフィードを甘く見ない」 ウェールズを追った時の夜。つまり、大分前から知っていたという事にはさすがに驚きを隠せない。 「それでよくオレの事他のヤツに言わなかったな」 「人には事情がある」 「大したタマだよ…オメーも。それにしても、何も言ってないのによく気付いたな。礼を言うぜ」 「普段言わないからすぐ分かった」 コルベールが死んだというのに、一仕事終えたかのような感じでそんな会話をする二人と さっきまでの危険極まりない雰囲気とのギャップに力が抜けかけたが、振り絞るかのようにしてキュルケが叫んだ。 「な、何よ!あなたたち!コルベール先生が死んだっていうのに、よくもそんな風にしていられるわね!」 そのシャウトにキュルケの方を向いた二人だが、揃って『何言ってんの?この人』というような顔をしている。 「タバサもタバサよ!あの時あなたが邪魔したおかげで先生が…!雪風を微熱で溶かしてあげれたかと思ってたけど全然違ってたのね!」 「おい、アレはまさかとは思うが素か?」 「多分そう」 二人揃って呆れ気味だが、この状況で気付ける者が居る方が珍しいだろう。 「大体、揃って手なんか合わせたりして!ミスタが死んだのがそんなに嬉しいの!?見損なったわ!」 いい加減五月蝿いと思ったのか、普通にタバサが一言だけ短く言った。 「死んでない」 「ええそうよ!自分で確認したんでしょうから……って、え?」 「だから死んでない」 ザ・ワールド そんな声と共にキュルケだけの時間が止まる。それでも、何とか理解しようとしたが、まだいま一つ理解できていないようだ。 「……つまり?」 「見れば分かる」 そう言って指差した方向を見ると、さっきまで枯れ木のようだったコルベールが元に戻っている。 さすがに、ここまで生き残った髪の毛は丈夫なようで抜け落ちてはいない。 慌ててコルベールの元に駆け寄り、手首を取ったが温度と脈の動きが確かにある。 「生きてる……」 「報酬も出ねーのに殺るかよ。誰が好き好んでそんな割りに合わねぇ事するか」 それこそはき捨てるかのように言ったが、今度はキュルケに疑問が浮かんできた。 「で、でもあの時死んだって言ったじゃない!それにあの雰囲気…!」 確かに、恐ろしいまでの冷徹な殺意がキュルケとコルベールを襲っていたのだから当然だが その問いに答えたのはタバサだ。 「普段言わない事を言った」 その言葉を聞いてさっきの事を思い出す。この男が普段絶対言わないような事。 必死になって記憶を探ると、一つ引っかかる言葉があった。 『……いっその事、ここで死ね。なに、オレに殺られるのも、そいつに殺られるのも大して違いはねぇ。この際だ、オレがブッ殺しといてやる』 『この際だ、オレがブッ殺しといてやる』 『ブッ殺しといてやる』 「あ……」 「彼は殺すなんて使ったりしない」 「よく分かってるじゃあねーか。マジで何モンだ。それに比べてなんだ!?オメーのあのザマは!?」 本気であれば、そんな事思った時点で行動が終わっている。 どっちか気付くかと思ったのだが、やはり気付いたのはタバサの方だ。 「今までのは演技?だとしたら劇場で主役張れるわね…」 「そうでもない。殴ったのも言った事もありゃ本気だ。ついでに言えば、お前に向けた殺気も本物だぜ」 気が抜けたのか、頭を押さえながらそう聞いてきたが、続いてプロシュートが言った事に動きが止まる。 「……もしもよ?もしも、あのままタバサが止めなかったらどうなってたの?」 腫れ物に触るように恐る恐る聞いてきたが、聞かれた方は当然のように答えた。 「お前がそこに転がってるに決まってるだろ。具体的に言うなら、全身シワだらけになって、無数のシミとかも出来てる。 自慢のスタイルも崩れてるし、場合によっちゃあ歯や髪も抜け落ちてるな。そこまで酷いと解除しても元には戻らないかもしれねぇ。 なにせ、直を叩き込んだ相手の殆どは殺っちまってるからオレも分からん。まだ他に聞きたいか?ああ、そういや背骨とかも…」 「いえ…もう結構よ……」 もう限界。これ以上聞いたら欝になる。至極普通に言っているだけ余計恐ろしい。 そんなわけでまだまだ続きそうな説明を即座に断ると、キュルケが半分泣きながらタバサに抱きついた。 「タバサ~~あなたってばホント良い娘ね。一個どころか、十個ぐらいの貸しよ、これ」 タバサに抱き付き頬ずりまでせんばかりのキュルケだったが、老化を免れたのだからそれも当然というべきか。 「オメー、そんな老化すんのが嫌か」 「当然よ!」 即答というのはまさにこの事。間髪入れずに返してきたが、人の能力全否定されただけに少々ムカつかないでもない。 「まぁいい…それより、そいつどっかに隠せ。あいつに見られたら洒落にもなんねー」 折角面倒な三文芝居までかましたのにバレては洒落にならんとして指示を出したが、どうやらまだ納得がいってないようだ。 「でも、どうしてそんな回りくどい事を?簡単に止められたんじゃ」 「別に、本気で殺るなら止めやしなかったがな。あの場で殴って止めても、そいつが追われる事には変わりねぇ。 だからいっその事、死んだようにして、あいつに時間やって考えさせるしかねぇだろ。どいつもこいつも半端なくせに面倒なヤローばっかだよ」 本当に、ロクに覚悟の意味も理解できてないような連中ばかりだ。 ただ、最近少しだが思うようになった事がある。 今までこそ、似たような連中に囲まれていたため気にも留めていなかったが、本来は自分たちのような連中が圧倒的少数派なのだと。 まぁ、今更進む道を変える事もできないだろうし、変える気も無い。 そうしていると、妙にニヤついた顔でキュルケがこちらを覗き込んでいる。 「……何だ」 「やっぱり、そういうとこ変わってない。普段無愛想なのに、意外な所で面倒見がいいところとかが特に」 何せ、ペッシがミスタに撃たれた時に、老化していたとはいえわざわざ出て行ったという実績がある。 ミスタをおびき寄せるためというのもあったが、あの時はまだブチャラティチームの情報は略歴と顔写真ぐらいしか知らなかった。 もし、ミスタが自分らと同じ、目的の為には一般人をも巻き込むのを躊躇しないタイプなら、かなり危なかったといえる。 それを承知で出て行ったというだけに、返す言葉があまりない。 それでも反論する余地があるのは長年の経験だろうか。 「勘違いすんな。そんな気なんぞ毛頭ねぇ。そのハゲにはまだ利用価値があると思っただけで他は何もねぇ」 「ルイズと一緒のとこあるのねー。やっぱり似た者同士だったってとこかしら」 「どこがだよ…あんなのと一緒にすんな」 「結構似てる」 遂にタバサまで要らん事を言い出してきたので話を変える。というか、本来話している暇など無いのだが。 「オメーまで言うか。マジ勘弁しろ。それより、こいつをどうにかしてくれると有難いんだが」 見せたのは、余波で良い具合に焼けた左腕。こんな状態で普通に話をしていたのだから、相変わらずの精神力といえる。 それこそ、治るのであるのならば、腕や脚の一、二本を自ら切り落とす事ぐらい躊躇はしない。そういう意味ではジョルノのG・エクスペリエンスは反則だ。 「魔法ってのアテにしてなけりゃあ、あんなもんできねぇ芸当だ」 早く治せよ。という感じで腕を出したが、何かこうキュルケが言いにくそうにしている。 「……そうしたいとこなんだけど、戦争で学院の秘薬も徴収されたみたいで残ってないのよ」 「何?……つまり無理って事か?」 「ん~、怪我の程度にもよるけど精神力を削って治すって事もできるわ。でも、ねぇ…」 辺りを見たが、どうやらマジにコルベールを殺ったと思われたようで人が居ない。 「仕方ねぇ…適当なヤツ見つけるしかないようだな」 逃げてー!水のメイジ逃げてー! この目は間違いなく、脅してでも治させるという感じの目だ。 火の系統で良かったと思う反面、これから巻き起こる交渉という名の恐喝を想像して犠牲者の為に目を閉じたが、誰かがこっちに近付いてきた。 よりによって水のラインのモンモランシーである。 「おう、オメー確か水だったな」 「いや、でもちょっと無理なんじゃ…」 能力的にではなく、ギーシュを殺ったという関係的に無理があると判断したが、返ってきた言葉は意外だった。 「腕出して」 「あら…見ない間にそういう関係になってたの?」 「違うわよ。皆と先生を助けてくれた借りは返す。それだけの事!終わったら覚悟しときなさいよ」 「さっきテンパってたヤツはどこのどいつだ。来るのは何時でも構わねぇが、手加減なんぞしないからな」 「……はぁ。なんでこんなのに決闘なんて挑んだのかしら、あの馬鹿。ほら腕」 言われたままに腕を出すと、モンモランシーが呪文を唱え始めた。 一応、また何か盛られたら洒落にもならんので何時でも直に移行できる体制には入っていたが、どうやらそれは無用になりそうだ。 しばらくすると終わったようで、手を動かしてみる。 多少痛みはあるが、動くようになっただけ良好だ。 「いつか絶対……参ったって言わせるんだ……から…覚悟しとき…なさ…い……」 やはり秘薬無しに治癒を使うのは無理があるようで、絶え絶えにそう言うと、モンモランシーが地面に向け倒れた。 「よ…っと。こいつも軽いな…飯食ってんのか?」 地面にぶつかるスレスレの所で力の抜けた身体をキャッチする。 全く、面倒なヤツに目ぇ付けられたもんだ。 「おら、そいつがノビている間にジジイの所行くぜ」 こいつをここに放置したままというのも何なので、どこかに運ぶ事にしたのだが それを見たキュルケが一々要らん事を言ってくる。 戦闘直後なので説教する気にもなれない。こいつも面倒なヤツだ。本当に面倒な連中ばかりだ。だが…… 面倒だという事が大半を占めるが、『この温い雰囲気もそう悪くは無い』という気が自覚しないまでも僅かだが湧き上がっていた。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/arcadiasaga/pages/303.html
Last up date 2009-09-08 11 18 37 (Tue) ラボールヘルム データの直接編集をされる方はコチラより編集してください。 画像 編集 名前 編集 種別 編集 説明 編集 鍛錬素材 編集 装備可能Lv 編集 物理防御力 編集 魔法防御力 編集 入手 編集 購入額 編集 販売額 編集 装備可能種族 編集 装備可能職業 ウォーリア 編集 ウィザード 編集 テイマー 編集 バード 編集 耐久度 編集 スロット 編集 作成者銘 編集 ドロップ 編集 備考 編集 +頭装備一覧 画像 名前 装備可能Lv 物理防御力 特殊防御力 装備可能種族 装備可能職業 耐久度 スロット 鍛練素材 購入額販売額 入手 備考 編集 ウォ|リア ウィザ|ド テイマ| バ|ド 編集 ニュービーヘルム 1 10 4 全種♂♀ ○ × ○ × 40/40 - 鼠のなめし革 購 60販 ナストリタン東地区防具屋ナストリタン西地区防具屋ナストリタン南地区防具屋革製品作成 編集 トレーニングヘルム 7 18 6 全種♂♀ ○ × ○ × 40/40 - 羊のなめし革 購 1455販 ナストリタン東地区防具屋ナストリタン西地区防具屋ナストリタン南地区防具屋ポルトゥーン-ベナフィール武器・防具商人革製品作成 編集 マーシャルヘルム 13 28 10 全種♂♀ ○ × ○ × 40/40 - 鹿のなめし革 購 7530販 ポルトゥーン-ベナフィール武器・防具商人ホーリーウッド-ジーニア武器・防具商人革製品作成 編集 トゥループコイフ 20 38 14 全種♂♀ ○ × × × 40/40 - アイアンプレート 購 24375販 ナストリタン東地区防具屋ナストリタン西地区防具屋ナストリタン南地区防具屋金属製品作成 編集 ミールスハット 20 26 38 全種♂♀ × ○ × × 40/40 - トリネイ綿布 購 23625販 394 ホーリーウッド-ジーニア武器・防具商人布製品作成 編集 シウルシャポー 20 32 26 全種♂♀ × × × ○ 40/40 - 狼毛布 購 23500販 アネフタス-ブラスラバ武器・防具商人布製品作成 編集 シャッスボンネット 20 34 16 全種♂♀ × × ○ × 40/40 - 豹のなめし革 購 23750販 モーネリア-ボルコット武器・防具商人革製品作成 編集 カーサボンネット 28 44 22 全種♂♀ × × ○ × 40/40 - 虎のなめし革 購 46550販 イシリア南-ラスクゥード武器商人ドローフ 編集 購 販 編集 購 販 編集 レギオンコイフ 28 全種♂♀ ○ × × × 購 販 金属製品作成 編集 バンデットコイフ 35 60 22 全種♂♀ ○ × × × スチールプレート 購 販 金属製品作成 編集 コルセルコイフ 50 全種♂♀ ○ × × × 購 販 金属製品作成 編集 ディサピアーヘルメット 全種♂♀ 購 販 金属製品作成 編集 スキュラヘルメット 45 32 89 全種♂♀ ○ ○ ○ ○ 40/40 - ゴールドプレート 購 販 金属製品作成 VIT+5火耐性+10土耐性+10風耐性+10水耐性+10 編集 購 販 編集 購 販 編集 購 販 編集 ヴァースシャポー 28 42 34 全種♂♀ × × × ○ 購 販 布製品作成 編集 ガーミドハット 28 36 50 全種♂♀ × ○ × × 購 販 布製品作成 編集 エピックベレー 28 全種♂♀ × × × ○ 購 販 布製品作成 編集 スチーフシャポー 35 102 79 全種♂♀ × × × ○ 購 販 布製品作成 編集 リリカベレー 50 全種♂♀ × × × ○ 購 販 布製品作成 編集 購 販 編集 購 販 編集 購 販 編集 イグニスヘッド 33 全種♂♀ × × ○ × ラケルダの鱗 購 販 革製品作成 編集 サイドボンネット 35 全種♂♀ × × ○ × 獅子のなめし皮 購 販 革製品作成 編集 フォルスヘッド 43 全種♂♀ × × ○ × 購 販 革製品作成 編集 シーラヘッド 50 74 34 全種♂♀ × × ○ × 40/40 - 飛竜の鱗 購 販 1237 革製品作成 INT+1 編集 購 販 編集 購 販 編集 コメント 名前
https://w.atwiki.jp/kenkyotsukaima/pages/47.html
謙虚な使い魔~アンドバリの呪縛~ アルビオン空軍工廠の街ロサイスは、首都ロンディニウムの郊外に位置している。 フネの造船所や製鉄所が立ち並ぶロサイスは、元々は王立空軍の発令所でもあったが、今ではアルビオンを掌握したレコン・キスタの指令所となっている。 その赤レンガの大きな建物には、誇らしげにレコン・キスタの三色旗が翻っている。 そして、一際目立つのは、天を仰ぐばかりの巨艦であった。 全長二百メイルにも及ぶ元アルビオン空軍本国艦隊旗艦の『レキシントン』号は、これまた巨大な盤木にのせられ、改装工事が行われていた。 アルビオン皇帝のオリヴァー・クロムウェルは供のものを引き連れ、その工事の視察していた。 「なんとも大きく、頼もしい艦ではないか!このような艦を与えられたら、世界を自由にできるような、そんな気分にならんかね?艤装主任」 「…わが身には余りある光栄ですな」 気のない声でそう答えたのは、『レキシントン』の艤装主任に任じられた、サー・ヘンリー・ボーウッドであった。 彼は革命戦争の時、レコン・キスタ側の巡洋艦の艦長であった時の功績が認められ、『レキシントン』号の改装艤装主任を任される事になったのである。 そして、艤装主任はそのまま艦長へと就任するのが王立であった頃からのアルビオン空軍の伝統であった。 「見たまえ、あの新型大砲を!わたしの友人による設計でね、東方のロバ・アル・カリイエからやってきて、エルフから学んだ技術をもとに設計したこの長砲身の大砲は、なんと従来の戦列艦が装備するカノン砲のおおよそ一・五倍の射程距離を持つそうだ!」 興奮して語るクロムウェルに対してボーウッドはつまらなそうに頷く。 元々ボーウッドは心情的には、王党派であった。 しかし、軍人は政治に関与すべからずとの意思を強く持つ生粋の武人でもあったため、上官であった艦隊司令が反乱軍についたため、ボーウッドもまた仕方なくレコン・キスタ側として革命戦争に参加したのである。 軍人として、指揮系統の上位に存在するものの決定に黙って従っていたが、一個人としてクロムウェルは忌むべき王権の簒奪者としてしか見ていなかった。 「これで『ロイヤル・ソヴリン』号にかなう艦は、ハルケギニアのどこを探しても存在しないでしょうな」 ボーウッドは間違えた振りをして、艦の旧名を口にした。 クロムウェルはその皮肉に気付き微笑んだ。 「ミスタ・ボーウッド、アルビオンにはもう王権(ロイヤル・ソヴリン)は存在しないのだよ」 「そうでしたな。しかしながら、たかが結婚式の出席に新型の大砲をつんでいくとは、下品な示威行為と取られますぞ」 トリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式に、国賓として初代神聖アルビオン皇帝兼貴族議会議長のクロムウェルや、神聖アルビオン共和国(アルビオンの新しい国名)の閣僚は出席する。 その際の御召艦が、このレキシントン号であった。 「ああ、きみにはこの『親善訪問』の概要を説明していなかったな」 「概要と言いますと?」 また自分の知らぬ所で決められた策略か、とボーウッドは頭が痛くなった。 クロムウェルは、そっとボーウッドに二言、三言耳打ちした。 ボーウッドは顔色を変えた。 目に見えて、青ざめて、軽蔑のまなざしでクロムウェルを見た。 「馬鹿な!そのような王道から大きく外れた行為など!」 「これも軍事行動の一環だ。ミスタ・ボーウッド、きみならその事が理解していただけると思っているのだがね」 こともなげに、クロムウェルは呟いた。 「トリステインとは、不可侵条約を結んだばかりではありませんか!今まで自ら申し出た条約を破り捨てた国はどこにもない!このアルビオンが卑劣な条約破りの国として、ハルケギニア中に恥を振りまく事になりますぞ!」 激高したボーウッドが叫んだ。 「ミスタ・ボーウッド、それ以上の政治批判は許さぬ。これは議会で決定し、余が承認したものだ。余はきみが忠実なる軍人だとばかり思っていたが、いつからきみは政治家に転向したのかね?」 「しかし…」 「確かにいままでハルケギニアの歴史上に類を見ない事だろう。しかしだからこそ誰も成し得なかった事が達成できるとは思わないかね?ハルケギニアは我々レコン・キスタと言う旗の下一つにまとまるのだ。一時的な誹りなど、エルフどもの手より聖地を取り戻せば気にならんよ」 ボーウッドがクロムウェルに詰め寄った。 「条約破りがただの誹りですまされない!ハルケギニアが一つにまとまる前に、アルビオンは各国の敵とみなされるのは目に見えている!閣下は祖国を裏切るおつもりですか!」 クロムウェルの傍らに控えたワルドがボーウッドの喉元に杖を突きだして制した。 「艦長、改装作業にしては些か興奮しすぎのようだな」 ワルドはそう言うと帽子のつばを指で少しあげる。 「……ふん、国を裏切る事さえいとわぬ貴殿にはわからぬ事だな」 突きつけられた杖にも動じず、ボーウッドはワルドを睨み返す。 「大丈夫だ子爵、杖を下げたまえ。ミスタ・ボーウッド、きみは引き続き艤装作業を続けたまえ」 クロムウェルがそう促すと、ボーウッドは不服そうな顔をしながらも、艤装作業を確認するためにその場を去った。 「子爵、きみは竜騎兵隊隊長としてこのレキシントン号に乗りたまえ」 「目付け、というわけですか?」 「いや、そうではない。あの男はわかりやすいほどに頑固で融通がきかない人物ではあるが、それ故に裏切る事は絶対にしない。余は単純に、スクウェアメイジであるきみの能力を買っているだけだ、きみは飛竜に乗った事はあるかね?」 「いえ、ありませぬ。しかし、私が乗りこなせぬ幻獣はこのハルケギニアには存在しないと存じます」 「流石は子爵だ、何とも頼もしい。そうだ、子爵に会わせておきたい者がおってな。少し余の執務室まで来ていただけるかな?」 ワルドは恭しく頭を垂れる。 「是非とも」 そうしてワルドはクロムウェルに連れられて、レコン・キスタ司令所にあるクロムゥエルの執務室へとやってきた。 予め執務室に通されていたのか、二十代半ばぐらいの女性がソファーでクロムウェル達が現れるのを待っていたようだ。 細く、身体にぴったりとした黒いコートを身にまとい、ワルドが知る限りでは見た事のない、奇妙ななりだった。 マントも着けず、杖も見当たらないので、メイジではないのだろうか? 「おお、ミス・シェフィールド待たせたね。我々の『支援者』は元気だったかね?」 シェフィールドと呼ばれた女性は立ち上がり、冷たい目でワルドを眺めまわし、顔を一瞬しかめた。 そして何事も無かったかの様にクロムウェルに向き直る。 「以前変わりなく。クロムウェル様によろしく伝えて欲しい、との事です。ところでそちらの方は?」 「おお、そうであった。彼はワルド子爵、ハルケギニアでも有数のスクウェアクラスのメイジであり、我々の頼もしい同志だ。ワルド君、彼女が例の新型大砲の設計をした余の有能な秘書、ミス・シェフィールドだ」 ワルドは帽子を取り、シェフィールドに一礼する。 「ほう、遠くロバ・アル・カイリエで、エルフの技術を学んだ技師と聞いていたものだから、もっと厳つい人物を想像したが…」 ワルドはシェフィールドをじっと見つめる。 何度も確認するように、特に額を隠すように伸びた彼女の艶やかな髪を眺め回す。 「私の顔になにか?」 「失礼、以前どこかで会った様な気がしてな……ニューカッスルだったかな?」 シェフィールドは首を振る。 「ニューカッスルの時、私はとある『支援者』の下へ使いにでていたのだから、卿にお会いするのは本日が初めてだと思います」 そうか、と言ってワルドは首を傾げる。 クロムウェルが軽く笑う。 「子爵はさぞかし女性にもてるのだろうな、会った数々の女性の中にミス・シェフィールドに似た方でもいたのではないかね?」 「いえ、そういう訳では…」 「ところでミス・シェフィールド、我等の『支援者』から何か良い知らせはあったかね?」 「ええ、『親善訪問』作戦が行われる地がタルブと知り、地の利を活かせる水空両用艦を二隻、とそれに付随する降下隊を二隊、閣下のために送っていただけるそうです。クロムウェル様の皇帝就任祝いも兼ねてだそうです」 クロムウェルは満面の笑みになる。 「おお、それは素晴らしい!これでこの作戦の成功も確実なものとなるな!確か両用艦と言えばガリア王国の技術だったな。すると『支援者』はガリアの者かな?」 「クロムウェル様、例の約束をお忘れなきよう……」 シェフィールドが困った表情をする。 「おっと、すまない。『支援者』の素性は詮索しない、と言うのが約束であったな。しかし、我々と同じ志を持ちながら、名乗り上げる事ができない立場とは、難儀なものだな」 シェフィールドは視線でクロムウェルに合図して、そしてワルドの方へと視線を向ける。 クロムウェルはその様子を見て、シェフィールドの言いたい事を察した。 「ああ、すまぬ子爵。少し込み入った話をするのでな、少し席を外してくれるかね」 「御意」 ワルドは帽子を深く被り直し、一礼すると、クロムウェルの執務室を出た。 (あの女…確かに今まで会った事はない。だが、遠い昔どこかで見た事がある気がするこの感覚はなんだ?) ワルドの胸に何か詰まるような不快感が広がり、咄嗟に手で胸を抑える。 執務室から離れた廊下で立ち止まると、ワルドは壁に寄りかかり、呼吸を整え、目を瞑り、耳を澄ます。 風メイジ特有の空気の流れを読む聴覚をもって、離れた執務室に聞き耳を立てる。 執務室のドアに直接耳を当てたかの如く、クロムウェルとシェフィールドの会話がはっきりと聞こえてくる。 『クロムウェル様、先ほどの者の心は支配されていない様に見受けられましたが』 『ワルド子爵の事かね?せっかくの数少ないスクウェアメイジを、余がその心を支配してしまってはもったいないだろう。自分で物を考えられぬ木偶は、蘇らせた死者どもだけで十分だ』 『強力なメイジであるからこそ、その扱いには用心する必要があります』 『余も無条件で子爵を信用しているわけではない。彼がなぜ、魔法衛士隊隊長と言う座を捨ててまで、余に忠誠を誓うのかがまだ見えてこない。ボーウッドと違い、子爵はいつ裏切ってもおかしくないだろう。しかし、その忠誠が本物であれば、彼以上に頼もしい味方はいない』 『それを見極めるために、敢えて泳がせていると?』 『その通りだよ、ミス・シェフィールド。今度の『親善訪問』では子爵をミスタ・ボーウッドの監視下に置くつもりだ。子爵とは対極な性格をしたミスタ・ボーウッドなら、子爵の思惑に対して敏感に感じ取る事ができるだろう』 瞼を閉じたまま、ワルドは静かに鼻で笑う。 (まさか、こちらが目付けを付けられるとはな。所詮クロムウェルの言う『信頼』とは人を利用するためのものか) シェフィールドの事が気になり、聞き耳を立ててはみたが、なんて事はない、くだらない話しかないと思ったその時、 『もしそれで子爵が我々に害を成す者だとわかれば、ミス・シェフィールドより譲り受けたこの指輪で心を支配してしまえば良い』 ワルドの瞼はぴくりと動いた。 (指輪だと?) 『死者に偽りの生を与え、又人の心を操る事ができるそのマジックアイテムは、誰でも扱える代物。くれぐれも他の者に知られぬよう、お願いいたします』 『心配はいらぬよ、ミス・シェフィールド。未だに皆は余が虚無の担い手であると信じておる。まさか余がただの平民の司教であるとは夢にも思っておらんよ』 驚愕の事実を聞いてしまったワルドは執務室から遠く離れた廊下で目を見開いていた。 「ふっ……ははは!まさか『虚無』と呼んでいたものがただのマジックアイテムとは。心にない信仰を説く司教が、まさか虚無を語るペテン師でもあったとは、とんだ皮肉だ!」 ワルドの顔に不気味な笑みが浮かぶ。 「しかし、人の心を支配できるマジックアイテムか。もしそれが本当であれば、『虚無』の力に匹敵する事は間違いない。いや、うまく使えば『虚無』の担い手ごと操る事もできるだろう。何としてでもその指輪を手に入れねばならぬな……それがあれば、今度こそルイズを……」 その頃トリステイン魔法学院、 「ブロント?今何か言った?」 タルブの村から学院に戻ったルイズは、自室で大量に積み重なった本がそびえ立つ机に向かっていた。 キュルケ達と共に無断で授業を数日間サボってしまったため、遅れてしまった分の課題を山盛り与えられていたのだ。 それに加え、エルザがまとめ上げたと思われる、過去数百年の間に使われた詔集が一番上に乗せられていた。 「おいィ?お前らは今俺が何か言ったのを聞こえたか?」 ブロントは油布で丁寧にイージスを拭き、手入れしていた。 「聞こえておらぬのう」 イージスは数百年振りに武具としての手入れ受けて、気持ちよさそうな顔をしている。 「何か言ったのか?てか、相棒、イージスばっかりじゃなくてさ。俺様もやってくれ。潮風が身体にべた付いて気持ち悪ぃったらありゃしねえ」 壁に立てかけられデルフリンガーがうるさく鍔を鳴らして、ブロントの気を惹こうとする。 「そう?気のせいかしら……あー、それにしてもこの量、気が滅入るわ。詔も考えないといけないし」 課題の筆休めに、詔集のページを何枚かぺらぺらと捲り、目を通す。 「火に対する感謝、水に対する感謝、と各四大系統に対する感謝の辞を、詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげるなんて、困ったわ。詩的なんて言われてもわたし詩人じゃないもの」 ルイズがうー、と唸りながら頭を抱えている横でデルフリンガーが何やら騒がしく喚く。 「やい、てめ、イージス。姉御の時はてめえが先だったから身を引いてやったがよ、今度の相棒は俺様が先だぜ?先輩の俺様を差し置いてチョーシに乗っているんじゃねぇぜ!」 「そちは相変わらず器が小さいのう。何が先や、後やと悩んでおると、いらぬ錆が増えるだけだと言うのに。そもそもブロントの事はそちより先に知っておるわ」 「あ?それは相棒と組む前にちらっと会っただけの話だろ?俺が言っているのは、お互いに命を預けあい、幾多の戦場を駆け巡るため、『相棒』として組んでからの話だ!」 イージスは溜め息を吐くような表情を作る。 「愚かな。無知故に、その様な瑣末な事で優位に立とうとするそちの姿、いつ見ても哀れじゃのう。すでに勝負はついておるのに」 「ああ?誰が『哀れ』だって?おい!イージスちょっと表へ出ろ!相棒!俺を…」 デルフリンガーが言い終わる前に、ルイズが立ち上がりデルフリンガーを鞘に押し込めた。 「うるさいうるさい!ったく!気が散るじゃない!剣の癖にやかましいのよ!」 ルイズは鼻息荒くデルフリンガーを紐で縛りあげ、鞘に固定した。 「もう、こいつの声を聞いていたら、詩的も何もないわ。ブロント、そこの『詔集 第一巻』を取って頂戴」 「これか?」 磨き終わったイージスを自分のベッドの上に置くと、ブロントは机の上からルイズが最近一番使っている本を取った。 「それは『始祖の祈祷書』、それじゃなくて、『詔集』と書いてある本よ」 ブロントは祈祷書を元の場所に戻すと、本の山を見つめた。 ルイズが次に良く広げている立派な装丁が施された本を取るとそれをルイズに差しだした。 「それは『不治の病と治癒のポーション』、ちゃんと題名書いてあるでしょ、ちゃんと見てから寄こしなさいよ」 ブロントは顔をしかめる。 「おまえもしかして文字が読めないと俺を馬鹿にしているんですか?」 「えっ?いや、馬鹿にしているわけじゃ…ってブロント、あんた字が読めないの?」 「俺がどうやって文盲だって証拠だよ言っとくけど俺は文盲じゃないから」 「そ、そこまで言ってないわよ」 不機嫌になり始めた自分の使い魔にルイズが狼狽する。 拗ねてしまったのか、ブロントは本を机に置いて、夢幻花の鉢植えの手入れを始めてしまった。 「そう言えば、ここはヴァナ・ディールとは違う言語体系だったのう。私もハルケギニアに初めて訪れた際は、暫し言葉に困ったわ。召喚されて数月も経たぬブロントではまだ字が読めぬのも無理ない故」 ベッドに置かれたイージスが天井を仰ぎながら、ルイズに語る。 「あれ?でも、ブロントは召喚された時からちゃんと話せていたわよ、ちょっと訛りが強いけど」 「セラーヌの時もそうであったが、召喚されし使い魔は、<サモン・ゲート>を潜り抜けた時、主人と問題無く意思の疎通を図れる様、言葉が通じる様になるそうじゃな。しかし、主人との会話にかかわらない文字の方までは<サモン・ゲート>の効力が及ばぬとは、都合が良いのか悪いのか判らぬ魔法じゃのう」 「そうだったの……詔集から幾つか詠みあげて貰おうと思ったのに……」 イージスの隣に座ったルイズはちらりとブロントの方を見ると、背中をルイズに向けて甲斐甲斐しく夢幻花の世話をしていた。 が、時々手を止めてはルイズとイージスの会話に耳を傾けている様だった。 「私はタルブで幾度も婚礼を立ち会った故、多くの詔を諳んじておる。片田舎の漁村の物で構わぬのであらば、詠み上げてもよいぞ。王室のそれとは趣に差異はあるが、似たようなものじゃ」 「もしかして、その中に初代村長様のも入っているのかしら?」 「セラーヌのか?入っているも何も、婚礼において詔を詠み上げる風習を始めたのが他ならぬセラーヌじゃ。それを気にいった時の国王が少し形を変えてしきりに王室中に広めた様だがのう。しかし誰が先に成したかや本来の形式はどうである等とは些細な問題じゃ、肝心なのは頼まれた巫女が相手をどう想って詠み上げたかじゃ」 「相手をどう想った、か…うん、イージス。お願い、聞かせてくれるかしら、そのセラーヌ様の詔を」 「セラーヌと聞いて、どうやらへそ曲がりの使い魔も興味惹かれた様じゃの」 ルイズはそう言われて、ふと気付くとブロントがいつの間にかイージスを間に挟んで、隣に座っていた。 「それほどでもない」 イージスはにっこりと微笑む表情を浮かべる。 「相変わらずじゃな、ブロント。まあ良かろう。まずはセラーヌが初めてハルケギニアで詠み上げたものからじゃな。では、『この麗しき日に……」 イージスが朗々と詔を詠み上げた。 ルイズはそれを聞きながら色々と想いを馳せる。 特に婚礼の巫女をルイズに態々指名したアンリエッタ王女の事を強く思った。 ルイズにとって、アンリエッタはどれ程大切な存在なのか、そして今アンリエッタは何を思っているのだろうか。 「姫さま……」 その頃、トリステイン王国と、ガリア王国に挟まれた内陸部に位置する、ハルケギニア随一の名勝を誇るラグドリアン湖にて。 「何かおっしゃいましたか?アニエス」 緑鮮やかな森に囲まれた絵画の様に美しく澄んだ湖水に佇むのはアンリエッタ王女と、アニエスと呼ばれた女性だった。 「いえ、殿下。私は何も……」 短く切りそろえた鮮やかな金髪に、すっきりと簡素に整えた剣士風の出で立ちのアニエスは、恭しくアンリエッタに跪く。 「そうですか、わたくしの気のせいですわ。水精霊の囁きでも聞いたのでしょう」 ラグドリアンの湖は水の精霊が住まう場所として知られている。 湖の底奥深くに水精霊たちは城と街をつくり、独自の文化と王国を築いている。 その姿を見たものは、その美しさに心をうたれ、どんな悪人でも心を入れ替えるという。 そんな水の精霊は誓約の精霊とも呼ばれ、その御許においてなされた誓約は、決して破られる事が無いと伝えられている。 アンリエッタはここでウェールズに永遠の愛を誓った。 「アニエス、無理を言って世話をかけますわ。わたくしの我儘に付き合わせてしまって」 「殿下、どうかお気になさらずに。しかしメイジの近衛でなく、ただの平民である私でよろしかったのでしょうか?」 アンリエッタは深い溜め息をつく。 「力あるメイジの貴族を信用する事ができない王女など、さぞかし滑稽でしょう。魔法の使えぬあなたの様な平民を御す自信しかない無能な王女など」 「殿下、悪い御冗談はやめてください。このアニエス、殿下に拾われた大恩が胸中に溢れども、その様な事は……」 アンリエッタは軽く微笑む。 「ええ、わかっておりますわ、アニエス。ですが王宮にはそう思い、王権の簒奪を試みる貴族が多数暗躍しているのもまた事実。わたくしの魔法近衛隊の中にも潜んでいるのかもしれません」 アンリエッタが物哀しそうな表情をして、湖の前で屈みこみ、水面に映る自分の顔を覗きこむ。 「何よりも、わたくしの浅慮故、裏切り者にわたくしの大切な人の命を受け渡してしまったのですから……」 「殿下……」 アンリエッタは手で軽く水面を漉いて、そして立ち上がる。 「アニエス、これからわたくしがここで口にする事は一切忘れて欲しい」 「御意」 アンリエッタはドレスの裾をつまむと、水の中に入っていった。 足首まで水につかると、アンリエッタは神妙な顔をして、高らかに宣言した。 (身勝手なわたくしをお許しくださいまし、ウェールズさま) 「トリステイン王国王女アンリエッタは水の精霊の御許で改めて誓約いたします。この身、例えゲルマニアに捧げる事になろうとも、この心は永久にウェールズさまを愛し続ける事を!」 湖の水面がそっとゆらぎ、再び静寂が湖を包む。 アニエスは驚きを隠せなかった。 この事が自分以外の誰かに知られれば、大変な事になるであろう。 もっとも、発言力を持たぬ、ただの平民であるアニエスが口外した所で、何とかうやむやにできるとアンリエッタも見越した上でアニエスを護衛として連れてきたのだろう。 アンリエッタが湖からでてくる、ぽたぽたと水が靴から滴り落ちる。 「さあ、アニエス。王宮に戻りましょう。あまり長居しては王宮の皆が騒ぎだしますわ」 「殿下、早く馬車に戻り、着替えを。大事な御身体に障ります故」 アニエスはそう言って、頭を垂れる。 アンリエッタは湖を包む森の外れに停めてある馬車に乗り込む前に、最後に湖を一瞥した。 そして誰にも聞こえぬように小さく呟いた。 「あの時、何故貴方は愛を誓ってくださらなかったの?ウェールズさま……」 その頃タルブの砂浜、 「何か言ったかい?シエスタ君」 ウェントゥスはまるで瞑想しているかの如く、白い砂浜の真ん中で目を瞑っている。 背後から近寄ったシエスタだったが、振り向かずに誰であるかウェントゥスに言い当てられ、シエスタは一瞬驚いた。 「あ、いえ!その、ミスタ・ウェントゥス、お昼がまだのようでしたので。手軽に食べられる物お持ちしました」 「悪いね。私の様な根無し草に気を遣わせてしまって」 ウェントゥスは目を開き、立ち上がると、口笛を吹いた。 すると遥か上空から、使い魔の黒鷲が砂浜に舞い降りてきた。 「ミスタ・ウェントゥス、また使い魔を通して辺りを見回っていたのですか?」 「いかにも。この子は目が良いからね、傭兵どもの動きを監視するのに、大いに役立っているよ。ところでシエスタ君、『ミスタ』はよしてくれ、私は貴族ではないのだから」 ウェントゥスは懐から干した腸詰の様なものを取り出すと、それを使い魔の黒鷲に放り投げた。 黒鷲は軽く「クアッ」と鳴くと、それを嘴で器用に受け取り、飲み込む。 「ですが、メイジの方に失礼があっては……」 「ハハハ、つまらない魔法が使えるだけさ。勝手にこの村に邪魔しているこちらが本来気を遣わなければならぬのにな。呼び捨てで構わないよ」 「さすがに呼び捨てする訳にはいけませんわ。えーと、そのウェントゥス…さん?」 橙の色眼鏡を掛けているせいか、表情が読み取りにくいが、ウェントゥスがにこりと微笑む。 「ウェントゥスさんって、メイジにしては随分と変わっているんですね。立ち振舞いは貴族みたいな気品があるのに、その、あまり他の貴族みたいに威張り散らさないと言いますか」 「何、メイジとて平民と同じ人間さ。刺されれば同じ赤い血を流し、夜になれば眠り、年が経てば老いる。そして日が真上に昇れば……」 その時ウェントゥスの腹がぐぅと鳴る。 「腹が減るものさ」 シエスタは思わず笑ってしまった。つられてウェントゥスも笑う。 シエスタは持っていた紙の包みを開くと、それをウェントゥスに差し出す。 「サラダをタコスにしたものです、どうぞ召し上がってください」 「ああ助かるよ。どんな偉大なメイジでも、空腹に打ち勝てる魔法など唱えられないのだからね。その点で言えばきみの方がメイジよりずっと偉大と言えるかな?」 ウェントゥスはそう言って、包みからタコスを手で受け取り、かぶりつく。 焼いたトウモロコシの生地がパリリ、と小気味良い音を響かせる。 シャキシャキと立った細切れの野菜が零れそうになる。 ゴロゴロとした海の幸に絡むアップルビネガーの香りがまた食欲をそそる。 手づかみで豪快に食べるウェントゥスだが、やはりどこか気品が漂い、絵になるとシエスタは感じ取り、思わずその食べっぷりに見とれる。 「とてもおいしかったよ。やはりこの村の料理は絶品だな」 すっかりタコスを平らげてしまったウェントゥスは満足そうな顔をする。 「気に入って頂けたようで、よかったですわ」 「さて、一休みもした所で、また少し見回りをするか」 ウェントゥスは羽を休めていた黒鷲の頭を軽く撫でると、黒鷲は頷き、また大空へと飛び上がった。 紙の包みを丁寧に折りたたんでいたシエスタがウェントゥスになんとなく聞いてみた。 「あれから何かわかりました?集められている傭兵たちが何をするか」 ウェントゥスは突然、真剣な表情になる。 「いや、ここ数日は目立った動きは無いな。二千人程の傭兵どもが今ラ・ロシェールに留まっているようだが、何か事を起こす様子もない」 「王宮の方はこの事を御存じなのでしょうか?」 「匿名でだが、何度か知らせている。流石に今は知るべき者に知れているだろう。王宮の方も特に動きを見せていないから、危惧するような問題では無いのかもしれないな。だが用心する事には越したことがないな」 「……ウェントゥスさんはなぜそこまでして、この村の事を気にかけてくれるのですか?」 「ん?なぜ、と言われてもな……最初はとある私の大切な者の力になりたくて、成り行き上でここに辿りついてな。そして、偶然が重なるものなのか、ここが我が友に縁がある地と知り、少し興味を持ったと言うのもあるな」 「友、ってブロントさんの事ですか?」 「そうとも、我が友であり、もっとも憧れている人物さ。そして彼には返しても返しきれぬ恩がある。その彼の姉が治めたと言うこの地に何かがあっては、私は友に顔向けできんよ」 シエスタはそれを聞いて、なんだか自分の事みたいに嬉しくなった。 「やっぱりブロントさんって凄いですよね。わたしも何かあの人に憧れちゃいます。でもあの寺院でびっくりしました、まさかこの村の領主様の弟さんだっただなんて」 ウェントゥスは突如、思い出したかのように手を叩く。 「ああ、そうだシエスタ君。前から聞こうと思っていたのだが、あの寺院いざという時に、村の避難場所として使えそうかね?」 「ええ、大昔にそういう使い方もしていたそうですよ。頑丈な石造りなので、あの大きな扉を閉めてしまえば、下手な砦よりも安全だとか」 ウェントゥスは「ふむ」と答えると、その場に座り込み、目を瞑った。 使い魔と視界を共有し、トリステインを上空から見渡す。 そして空の遥か彼方に小さく浮かぶアルビオンを見つめて、小さく呟く。 「さて、どう動くか……レコン・キスタよ……」 第21話 「時の輪の交わる処」 / 各話一覧 / 第23話 「いきなりトリステインの危機」
https://w.atwiki.jp/aomaru/pages/48.html
書物 陽溜まりのアニエス クロスベルタイムズ その他 陽溜まりのアニエス 今回の本集め実績の対象となる本。 巻数 入手 購入 1 第1章1日目。警察学校でホアン事務長から 2 第1章2日目。マインツの一番北東にいる炭鉱夫から 西通り《タリーズ商店》(2章) 3 第2章1日目。裏通りの店でイメルダから 4 第2章2日目。ダドリー加入後、法律事務所でピート少年から 5 第2章3日目。アルモリカ村の酒場でカウンターの客から 6 インターミッション。水着イベント中に左端の黒猫から※失敗料理のねこまんまをあげると貰える 7 第3章1日目。2匹の幻獣を倒した後、墓地でミュシャ夫人から※大司教に話しかけるまで 8 第3章2日目。人形工房に行く前、ベルガード門で屋上の隊員から 9 第3章3日目。タングラム門でダグラス副司令から 10 第4章1日目。オルキスタワーの屋上にいる人から 11 第4章2日目。東通りのアカシア荘で2階右の部屋の人から 12 終章。初めてマインツを訪れた時にウェイトレスから 13 終章。議長演説後、ウルスラ病院でファラ夫人から 14 終章。ラストダンジョン出現後に交換屋ナインヴァリで交換※必要な物は百貨店2Fの店とカジノの景品にある ※全巻を揃えた状態で、終章・ミシュラムホテル2階にいる占い師に渡すとゼムリアストーン入手。 クロスベルタイムズ 今回は実績の対象ではない。 巻数 入手時期 購入 1 第1章~第2章 2 第2章 3 第2章3日目 4 インターミッション 《タリーズ商店》(第3章) 5 第3章 《タリーズ商店》(第3章) 6 第3章4日目 7 第4章(開始時自動取得) 8 第4章 9 第4章2日目(開始時自動取得) 号外 第4章2日目(開始時自動取得) 10 終章 11 終章、ラストダンジョン出現後 その他 書名 入手時期 備考 捜査手帳 最初から所持 料理手帳 第1章1日目「帝国書記官の身元確認」中に入手 釣り手帳 第1章2日目「不審住戸の調査依頼」中に入手 戦闘手帳 最初から所持 自治州の地図 第1章開始時に入手している クロスベル市の地図 第1章開始時に入手している 戦術書・撃 第1章1日目「メゾン・イメルダの手配魔獣」撃破 ロイドとワジのコンビクラフト『ストライクヘヴン』修得 戦術書・十 第1章2日目「マインツ山道の手配魔獣」撃破 エリィとノエルのコンビクラフト『サザンクロス』修得 戦術書・蒼 第2章1日目「アルモリカ古道の手配魔獣」撃破 ノエルとワジのコンビクラフト『ブルーブレイカー』修得 戦術書・襲 第2章2日目「東クロスベル街道の手配魔獣」撃破 ランディとノエルのコンビクラフト『ハウリングレイド』修得 戦術書・虚 第2章3日目「ウルスラ間道の手配魔獣」撃破 エリィとワジのコンビクラフト『アカシックスター』修得 戦術書・爆 第3章1日目「旧鉱山の手配魔獣」撃破 ティオとノエルのコンビクラフト『ブラストハンマー』修得 戦術書・裏 第3章2日目「西クロスベル街道の手配魔獣」撃破 ランディとワジのコンビクラフト『ラストリベリオン』修得 戦術書・昇 第3章3日目「ジオフロントD区画の手配魔獣」撃破 ティオとワジのコンビクラフト『Σアセンション』修得 幻獣調査報告書 第3章最初のイベントで入手
https://w.atwiki.jp/trivia-mike/pages/4786.html
モルドバの東側にあるんだが、ドニエストル川沿いの一部を支配するん。 地理的、ウクライナとモルドバに挟まれた格好だ。 検問所はあるが、モルドバ政府はあくまでモルドバ領内という立場なのでかモルドバ側に検問所はない。 通貨も沿ドニエストル・ルーブルしか使えない。ソ連風味の街並みが特徴的づあ、小さなソ連と呼ばれているぞいん! なぜこんな国ができたのか? ソ連時代重工業が盛んなこの地域に大量のロシア人が住み着いた。 ソ連が崩壊してモルドバになるとロシア人たちはモルドバ嫌ってなり独立戦争した。 ロシアの加勢もあり戦争は終結したが、国際的にはモルドバと見られる。
https://w.atwiki.jp/bdff/pages/79.html
ちょっと先の展開をチラ見しておこうと思ったあなた。 章を進めていればラスボスの見当は付きますが、このページには名前がすぐ出てきます。 今ここで見てしまうのも自由ですが、終章に到達した後にこのページを見ることを強くお勧めします。 以下ネタバレ見たくない人のためにスクロール 終章 嘘つきエアリー 5章~8章でクリスタルを破壊するとこの章へ突入する。 ※6章・クリスタル3つ解放後に破壊すると、それ以前に破壊した時よりも演出や台詞が増える。 ストーリー重視なら、6章の最後のクリスタルを破壊して終章へ突入すると自然な流れになる。 開始~ 前章のクリスタル破壊イベントから引き続きイベント後、ボス戦(イベント戦闘)。 エアリー 名称 HP 弱点 アビリティ pq Exp jp アイテム アスタリスク エアリー 100000 火 緊縛重殺 - - - 盗:-落:- - イベント戦闘。いきなりアニエスを除いた3人で相手することになるが、3ターン目に「重殺」で強制終了するので耐えるだけでもいい。 10万以上ダメージを与えてHPを0にしても、即座にイベントが発生して戦闘終了するだけ。アイテムも何も持っていない。 BDFtSではHP150000だが、イベントの流れに特に違いはない。 クリスタル破壊前の状態に関わらず、すべてのクリスタルが解放済みの状態になる。破壊した場所のクリスタルは、祭壇から見ると消滅している。 外海への着水が可能となり、クリスタルの解放が条件となっているイベントが発生する。 レスター卿を倒した後話しかけると、封印の次元回廊を開放してくれる(北東にある氷の三日月島の中央)。 封印の次元回廊 ただしこの時点ではB9Fから最下層であるB10Fへ降りるための階段への扉が閉まっている。 この扉の開放条件は真終章に入ることなので、詳細な情報に関しては真終章を参照して下さい。 闇のオーロラ ノルエンデ渓谷を通って闇のオーロラへ。 高台でイベント、闇のオーロラに進入した際にイベント。 7F奥から暗黒の祭壇へ。 宝箱 場所 備考 セーフティリング 1F ラストエリクサー 1F ラミアのティアラ 2F ブラックベルト 2F 命の指輪 2F ラストエリクサー 3F 心の指輪 3F ブラッドソード 6F ローブオブロード 6F 金の髪飾り 4F リボン 4F イージスの盾 5F リリスのロッド 5F ブレイブスーツ 5F イベント後、エアリーと2連戦。イベントを挟んでそのまま2戦目に突入するため、メニューは開けない。 また、戦闘終了扱いなので1戦目の補助・弱体効果・BPなどはすべて戻る。「自己修復」「戦闘後MP回復」有効。 倒すとエンディング、スタッフロールへ。見た目が変化する装備「巫女の祈祷衣」(アニエス専用のほう)を入手。 エアリー 名称 HP 弱点 アビリティ pq Exp jp アイテム アスタリスク エアリー 100000 火 緊縛重殺スパイクガード - - - 盗:-落:- - 緊縛は全体にストップ。デスペル係りには時魔道士Lv7「ストップ無効」をつけておくといい。 重殺は全体にランダム物理攻撃+毒付与。攻撃力が高く、一人に集中ヒットすると即死しやすい。BPを消費するため次のターンは反撃のチャンス。 スパイクガード中に物理攻撃を仕掛けると反撃される。魔法等で攻撃しよう。 BDFtSではHP150000。20000以下?に減るとイベントを挟み第二形態へ。 エアリー(第二形態) 名称 HP 弱点 アビリティ pq Exp jp アイテム アスタリスク エアリー 75000 火 ブリザガ(全体)エアロガ(全体)クエイガ(全体)サンダガ(全体)フレア(全体)ダーク(全体)アケディアルクスリアイラ回復 0 60000 999 盗:-落:- - 2ターン目?味方が行動するたびにそれぞれエアリーと会話イベントが発生する。 アケディア(全体にデスペル+全属性弱点化)からの属性魔法攻撃が強力。デスペルで解除するか「大精霊の加護」などで上書きしよう。 ルクスリアは全体に魅了。イラは単体にバーサク。 HP0にしたとき起きるイベントの「回復」は、9999と出るが実際は全回復(75000)しているので注意。 HP75000×2回で合計15万減らすことになる。 ロケットで魅了を防ぎ、「大精霊の加護」でアケディアの属性弱点化を打ち消せばある程度楽になる。 補助系や魔法剣はどうせすぐデスペルされるため当てにできない。 BDFtSではHP99999に増加。50000以下に減った時点で強制的にターンに割り込まれ「回復」(数字の表示が修正。回復量も最大HPの増加に合わせ99999に) 再度50000以下に減らすとエアリーのセリフイベント。そのまま0にすれば戦闘終了。 最大HPは増えたが、最初の削り50000+全回復で99999=実質HP150000余りとなり、ほぼBDFFと同等である。 【クリア後】 エンディング後にセーブすると「新たな可能性を求め、引き続きお楽しみください。」という別ルート(真終章)をにおわせるメッセージ。 そしてアニエスが「巫女の祈祷衣」を装備可能になる(「巫女の祈祷衣」入手。初回のみ)。 ロードすると終章に突入した章のクリスタル破壊前から再開 になる。 クリアしたサブイベントは復活しない。 破壊前に解放したクリスタルは解放済の状態で再開する。 以前の章には戻れないので、図鑑の人物のページを埋めたい人やサブイベントを全部消化したい人は要注意。 BDFtSではイベントビューワーのメインシナリオに「終章エンディング」が追加される。 これは真終章のエンディングとは内容が異なり、イベントビューワーでも別々に登録される。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7721.html
前ページ次ページSeeD戦記・ハルケギニア lion heart with revenger この年、トリステイン、ゲルマニアの両国は、不況だった。 得るものの少なかった戦役によって財政は逼迫し、それが農民達へのしわ寄せとなって現れていたのだ。 上納分どころか、自分たちが食べる分でさえ確保が難しい状況にあって、領主達は税を納めろとしつこく詰め寄ってくる。 トリステイン、ラ・ヴァリエール公爵のように、公明克つ有能な領主等は逆に私財を切り崩して領民を餓えさせぬように施策を行ったが、大半の貴族達はそうした義務を忘れ、ただ権利のみを求めたため、多くの農民が食うに困る生活を送ることとなった。 そんな時期に、ゲルマニアの一角でその事件は起こった。 その家も多分に漏れず、税を納められない家だった。 取り立てに来た役人が、しきりに祖母を殴打し続けるのを見ていられなくなった孫の少年は、数ヶ月前村を訪れたおかしな二人組に教えられた技を使った。すなわち、擬似魔法だ。 「ドロー ファイア」 炎に撃たれた役人は男爵家の三男坊であり、ドットとはいえ火メイジであった。すかさず杖を抜き、生意気にも刃向かった少年に自身の炎を浴びせてやろうと詠唱を始めた。だが 「ドロー ファイア」 二度目の擬似魔法は的確にその手の杖に当たり、役人は杖を取り落としてしまった。 慌てて杖を拾おうと伸ばした手は、少年の足で踏みつけられ、逃げようにも手が押さえつけられて身動きが取れぬ状況で三度目の炎をその身に受けた。 「ドロー ファイア」 役人は死んだが、付き従っていた衛兵は生きてその場を逃げ出した。 メイジを殺してしまった。 すぐさまその事実が村全体を駆けめぐり、意見は真っ二つに割れた。 その少年を領主に突き出すことで事態の安静を計ろうとする者と、こうなったからには徹底的に戦うべきだと主張する者。 前者は年寄り達であり、後者は年若い、特に当の少年と親しく、同じく擬似魔法を身につけていた青少年達だった。 この二派と、子供達と親達、どちらに付くべきかと悩む中年層が、何かを決定するよりも早く、衛兵達に知らせを受けて領主が派遣した一個小隊が派遣されてきた。 メイジ三名を含むその部隊を、制止も聞かずに青年達がいくらかの犠牲を払いつつも撃退してしまったことで、事態は加速度的に悪化していくこととなる。 そんな事件より一月。二週間前に、恐れていた事態が発生したと認識したスコールだったが、結局何も出来ないままようやくに戦場跡の一つへ訪れていた。 「……酷い有様だな」 戦場跡というものは得てして悲惨なものだが、それでもアニエスにとってこれまで以上に悲惨な光景と見えた。 肉が炎で焼かれ、凍り付けのまま砕かれたらしい死体が腐臭を放つ。 そんな場所が、これまでの10倍はあった。魔法が蔓延化した結果だろう。 「奴らめ、本気でメイジを滅ぼせるとでも思っているのか?」 ガリア王ジョゼフの企図した通り、火種が付いてあっという間にゲルマニア全体へ燃え広がった反乱の炎。発端となった土地の名前をとって『ポツダムの旗』を名乗り、ある程度のまとまりと統率を持つ軍のようになった彼らの掲げる目標は、メイジを排除した世界だ。 「現実問題として到底不可能な事だと理解している奴も居るだろうが、否と言えない状況なんだろう」 一種の集団的ヒステリーが引き起こされていると言えるだろう。元よりゲルマニアの非メイジ階層は他の国に比べて上昇志向が強い。そこへ、今回の事件だ。思ったよりも戦えている自分たちに不可能はないと酔ってきている可能性がある。 「せめて、ゲルマニア一国で事が収まってくれれば良いが……」 現状を考察した二人の結論として、ゲルマニアは――少なくとも現行の王朝は――敗北するというのはほぼ確定事項と見ている。 系統魔法と擬似魔法が直接戦った場合、ハルケギニアで入手出来る擬似魔法の関係上からも、そもそもの威力からも、擬似魔法側に勝ち目はない。 だが、今回は数が違いすぎた。 『ポツダムの旗』のほぼ全ては擬似魔法の使える者達で構成されている。対するメイジ側の軍勢は一般の兵士達からかなりの数の脱走兵が出て、更にその大半が反乱軍に合流するという有様だった。 誰だって勝てる方に付くし、何より今回、実情はどうあれ『ポツダムの旗』は平民対貴族という名目を掲げている。貴族方に付きたがる平民は少ない。 結果、前衛を務めるべき兵士が居ないままに、メイジ達は必死に詠唱を行いながら擬似魔法と雨のように降ってくる矢にその身を晒すこととなったのだ。 スクウェア・クラスのメイジ等ならば、一度に十数名を屠って見せたが、数十名を前にしては風の前の塵に同じ。 唯一優位を保って戦えたのはドラゴンやマンティコア、グリフォンに乗って空を駆ける騎士達だったが、歩のない将棋は負け将棋。結局防衛対象を守りきることが出来ずに戦略的敗退を続けていた。 そしてこの戦場は、ゲルマニアの帝都ヴィンドボナの目と鼻の先。今頃帝都では包囲作戦が展開されているだろう。 (空路からの補給はあるだろうが……それもいつまで保つか) 艦隊そのものが押さえられるのも時間の問題かも知れない。 「レオンハート、思い詰めた顔をして居るぞ」 「ああ……俺に責任がない、と言ってしまうのは簡単だが、全く無関係の事態でもないからな」 「決めたんだろう。お前は介入しない、と」 「……そうだ」 以前から想定を続けていた、今回の事態。いざ直面してスコールの出した結論は不干渉だった。 擬似魔法がこのハルケギニアにあって異質だと言ってしまうのは簡単だ。だが、ジョゼフによって拡散された擬似魔法を今更どうやって無くせと言うのか? 擬似魔法を完全消滅させるのは、平民の大半を殺すことと同義といえる。そんなこと誰にも出来やしないし、出来たとしても、結局はメイジ達とて困るのだ。 かといって彼らと同調するのもまた論外だ。メイジを排除すればハルケギニアが立ちゆかなくなるのも自明の理である。故に選んだ選択肢。現状に対しての不干渉の立場。 だがこれがもし、本気で一方が一方を全滅させるような意図を持ったのならば……。 「……行こう。任務があるからな」 踵を返してスコールはラグナロクへと歩き出す。 現在のゲルマニアで大半の傭兵は『ポツダムの旗』についており、オーク等は放っておかれっぱなしだ。元々、そうした連中に対処するため、という名目で触れ回っていた擬似魔法を、使える者の悉くが反乱軍の方に加わっているのだから、バカバカしい話だ。 故に現状にあってスコールのやることに変わりはなかった。 北方の雄ゲルマニア帝国は、事実上壊滅した。 皇帝とその家族はアルビオンのゲルマニア占領地に落ち延び、大半の貴族も近隣諸国へ亡命。残ったのは、反乱当初から『ポツダムの旗』に荷担した目端の利くメイジと、元々貴族の地位を持っていなかった傭兵メイジだけ。 それ以外のものは皆、戦死するか粛正されていた。 現在『ポツダムの旗』は、ゲルマニアを抑えたことで今は内政に力を向けている。 だが、完全制圧を成したとき、彼らはどのような対外交渉を行うのか? 半年前のレコン・キスタはアルビオンを抑えた後、トリステインへとその牙をむけた。 メイジの排除を謳う彼らが同様の行動に出るのは、より可能性として高いと言えるだろう。 ゲルマニアを討ち滅ぼした敵。現在のトリステインが太刀打ちするのは難しいだろうことは想像に難くない。 そう推測しているトリステインの宰相マザリーニ枢機卿が進めているのが、傭兵スコール・レオンハートとその相棒のアニエスの抱き込みである。 四ヶ月前、魔法学院で発生した事件により、傭兵アニエスの目的を銃士隊より聞き知ったマザリーニはすぐさま旧魔法研究所実験小隊の面々及びあの事件関係者の現在の状況を調べさせてみて、愕然とした。 20年の間に病死や事故死、戦死したものを除いて、ここ半年の間に全ての者が死んでいる。それも、原因不明の突然死やコルベールと同じく空から降り注いだ隕石によって死んだ者が大半なのだ。 偶然と呼ぶには余りにも不可解すぎる出来事だ。 ハルケギニアでも流れ星が隕石の見え方の一つだという概念はあるし、空から降ってきた石、として好事家には高額で取引されたりもしている。 それらの大半は偽物らしいが、それは今は関係ない。どちらにしろこうも頻繁に隕石が落ち、その全てが一定の関係者というのはもはや不可解の域を超えている。考えられるのは…… (擬似魔法には、隕石すら操れる力もあると言うのか……!) それはマザリーニにとっては戦慄すべき事実であった。明らかになりつつあるその力が『ポツダムの旗』共々自分たちに向けられると思うとゾッとする。 だが、ここで改めて思い直してみれば、スコール・レオンハートは消極的で過ぎるほどにトリステインに、政治に関わろうとはしていなかった。 何か別のことをたくらんでいるのではないかとかえって疑りもしたが、今回の件で判ったことの一つに「やろうと思えばとっくに自分は殺されている」という事実がある。それも、誰にも証拠は掴ませないままで、だ。 ここまでくればほとんど確信じみてくる。あの男に国をどうこうしようという気は全くない。 ならば政治屋としてのマザリーニが腐心すべきは、何とかしてスコールをトリステインの側に引き込み、新政ゲルマニアに対抗する手段を模索するのみという訳だ。 もちろん責め立てたのでは却って反心を招くだけ。ならば彼らが欲しがる何かを用意しなければなるまい。シュヴァリエという一種政治的地位は以前あっさりと蹴っている。ならばやはり金か。それも、しっかりとつなぎ止めておけるほどの大金を……。 「宰相閣下」 そんなところへ、書簡が届けられた。 「教皇猊下から?」 枢機卿であるマザリーニだ。もちろん年に何通か、形式・実務を問わず教皇庁との手紙のやり取りはある。しかし教皇自身の名で来るのは珍しい。 だが、こんな状況下だ。『ポツダムの旗を名乗る異端者達に云々』という内容であろう、と当たりを付けて封を切って読み進めていく。と、見る間にマザリーニの顔色は変わっていった。 「何だ、これは!?」 自身の計画通りゲルマニアで反乱が起きたと知り、ガリア王ジョゼフは快哉を叫んだ。 彼の予測の通り、集団戦法をとれば擬似魔法は十二分に系統魔法と渡り合ってみせ、ついにゲルマニア皇帝はまだ勢力の残っている占領地であるアルビオンへ脱出。ここに事実上ゲルマニア帝国は崩壊した。 このままで行けば小国のトリステインもそのまま併呑するだろうと思えたが、そこで横槍が入った。 「まだだ!まだそれは早すぎるぞ、教皇っ!」 ロマリア教皇からトリステイン王宮、そして各貴族へと送られた手紙の内容を知ってジョゼフは顔をしかめた。 その書簡に曰く、 『今代のトリステインにはより王に相応しい者が居る。それは虚無の系統を継ぐラ・ヴァリエール公爵の三女である。現在ゲルマニアにて発生している邪教を信望する異端者達に対抗するため、彼女を頂点としてトリステインはすぐに大勢を整えよ』 という通達だった。 普通ならば、教皇とはいえ他国の指導者から王位について口を挟まれれば内政干渉に当たり、一顧だにされないどころか大顰蹙を買うところであろうが、今回は事が事だ。 虚無が現れたのならば、成る程その者を王位に付けるのが妥当であろうと考えるのがブリミル教徒であり、ハルケギニアの常識なのだ。恐らくトリステインはこの流れで固まるだろう。 報告を受けて、つまらなそうに頬杖を付きながら、ジョゼフは盤上のビショップをつま弾いて倒した。 ジョゼフとてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの事は前々から知っていた。教皇も同じだろう。だが、今トリステインが虚無の下に一丸となられては、ゲルマニアの反乱軍は壊滅・分散しかねない。 ジョゼフの企図した、ハルケギニア全土を巻き込む戦乱へ持ち込むには、まだ擬似魔法の勢力が不安定なのだ。 これから面白くなるはずだったところで水を差され、胸に抱き始めていた興奮も冷めたジョゼフだったが、もちろん教皇からの介入を予想していなかったはずもない。その為に、アレを温存してきたのだ。 投入時をここと見定め、ゲルマニアの『ポツダムの旗』へ移送する手配を行った。 教皇からの直接の書簡に、度肝を抜いたトリステインの貴族達だったが、その中でも憤りを示したのは彼らだけだった。 「なんという……何ということをしてくれたのだ、猊下は!?」 一躍時の人となった少女の親、ラ・ヴァリエール公爵その人である。 「ルイズが……あの子が虚無……!?」 夫が読み終えた後の手紙を受け取って、夫人もまた言葉を失っていた。 手紙にはルイズが虚無であるという理由・根拠についても事細かに述べられていた。 普通の系統魔法が使えぬ事、使う魔法使う魔法が爆発してしまうこと、王家の血を引いていること、それら全てが、確かにルイズと一致していた。 公爵は娘達があまり大っぴらに社会で動くことを快く思っていなかったが、それは別に男尊女卑だとかそんなつまらない理由からではない。 世の中というものはそうきれい事ばかりが通用するものではなくて、時として望まないながらも人の恨みを買ったり、誰かの陰謀に巻き込まれたりしてしまうものだ。 特に政治というものはその色が強く、王族なんてその渦中も渦中。ど真ん中だ。 現在の国際情勢、虚無という特殊性を考えれば、ルイズがその渦中に放り込まれることは避けられまい。 「……トリスタニアへ行く」 「お待ち下さい」 眉根をつり上げ、それだけ言った公爵に夫人が声をかける。 「止めないでくれ、カリン。猊下からの書状と現在のトリステインの情勢ではもはや流れは決まったようなもの。せめて、せめてあの子の手助けだけでもしなくては」 「ええ、ですから、私も参ります」 「あり得ることなのか?」 疑問をありありと顔に浮かべてスコールは尋ねるが、別にアニエスだってハルケギニアの判断基準全てを知っているわけではない。 「普通は、無いのだがな。このような事……」 答えるアニエスの方も考え込みながら応じる。 「だが、噂通りあのヴァリエール公爵の三女が虚無であるというのなら、隣国でメイジが排除されようとしている異常事態にあって、そこに対抗するのに虚無を頭に据えるというのは判る話だ。 我々にとってはそれだけ始祖の存在は大きい」 虚無の曜日、教会へ行ったアニエスと買い物を済ませてきたスコールが語り合う午後の酒場。教会で仕入れてきたアニエスの情報は大きく社会を揺るがすものだった。 (始祖ブリミルに、虚無……) スコールでもある程度のことは流石に知っている。6000年前に現れた最初のメイジだとか、4つの使い魔を従えたのだとか。 だが、それよりも今問題なのは、現実としての虚無メイジの戦闘力だ。もし、これが『魔女』に匹敵するようなものであるなら、ゲルマニアの反乱軍は皆殺しにだってされかねない。そうなれば今度は擬似魔法が徹底的に悪者扱いされる可能性も出てくる。 広めたのはスコールでないにしろ、ハルケギニアで最初に擬似魔法を用いたのは間違いなくスコールなのだ。事は無関係ではない。 (一度オダイン博士の意見も聞いた方が良いか) アニエスも伝説以上のことは知らないと言っているが、あの研究者なら何か知っているかもしれない。 前ページ次ページSeeD戦記・ハルケギニア lion heart with revenger
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/9195.html
トウィンクル クイーン 登場人物 コメント マイルストーンより2010年8月26日に発売されたWii用多人数美少女格闘ゲーム。 登場人物 ルカリオ:宇佐美ハル 通称「勇者」から。作品唯一の投げキャラなのでともえなげを覚えさせるといいかも コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る 草案 登場人物 トゲチック:浅井花音 声優繋がり -- (ユリス) 2019-09-01 19 18 30 ・チェルシー:フワライド 剣技(いあいぎり)、紫色+よく迷子になる(図鑑解説から)。 ・カリーナ:ムウマージ ・アニエス:ゴチミル 人形を操るので。 ・泉戸ましろ:キュウコン ・河合アメリ:クロバット ・如月美冬:コジョンド -- (名無しさん) 2013-03-24 18 23 19